軽井沢の冬 Vol.8

軽井沢の冬:「いつかは軽井沢に別荘を」。夢を掴んだ先に、見えた景色とは

仕事でも恋愛でも、常に勝ち負けを意識し戦闘態勢を崩せない東京人たち。

人生の冬を迎え、心が渇いてしまったら、東京から1時間のオアシス・軽井沢で己を見つめ直すと良いかもしれない。

軽井沢で、東京人たちを出迎えもてなしてくれる女性がいる。美希、35歳。

これまで様々な東京人が美希の元で心の平穏を取り戻したが、今度は美希に夫・誠司の浮気が発覚

絶望する美希の前に現れたのは、青春時代を共に過ごした元カレ・雄一だった―。


涙を拭う役目は、俺じゃない。


「ねぇ雄一先生、聞いてる?」

しまった。助手席に座る沙織に、また聞かれてしまった。これで3、4回目か?

信号待ちで沙織の様子を盗み見ると、目を細め、頬を膨らませてこっちを見ている。

「ごめんごめん、今さ、えーっと….そう、今日どこにディナーに行こうか考えてたんだ。」

慌てて取り繕う。沙織にヘソを曲げられると面倒だ。

「そうなんだ❤楽しみだなぁ♪そうだ、インスタで軽井沢のこと色々調べようっと。」

鼻歌交じりでスマホを取り出した沙織は、心底楽しそうだ。ウキウキしているのが、こちらまで伝わってくる。

一点の曇りもない笑顔で、雄一を見つめてくる、27歳の沙織。天真爛漫な笑顔が、若かりし日の美希と重なって、雄一は頭を振った。

余計なことを考えるのはやめよう。

そう自分に言い聞かせる。いくら考えたって正解に辿りつくわけがないのだ。美希の涙の理由なんて。

あの日、雄一の顔を見るや否やぽろぽろと涙を零す美希は、突然のことにうろたえる雄一の脇をすり抜け、無言で去って行ってしまった。

引き留めるべきだっただろうか。

いや、美希の涙を拭う役目は俺じゃない。美希は人妻なのだ。10年前、うだつの上がらない司法浪人中の雄一を捨て、資産家に嫁いだのだから。

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