25時の表参道 Vol.1

25時の表参道:叶わない恋ならば、いっそ忘れたい。可憐で危険な、人妻からの誘惑

マノロブラニクの9センチヒールで表参道を闊歩する、一回り上のイイ女


結局、千代田線に乗って明治神宮前で降りて、表参道通りを歩いた。時刻は24時過ぎ。表参道通りにほとんど人はいない。


夜の散歩は嫌いじゃない。夜風に当たりながら歩くと、頭が冴えて気持ちもクリアになる。

「ヒール履いているのに歩かせる男は最低。」

美月はよくそう言っていた。「女性を歩かせない」、僕の頭の中には、そんなマニュアルが叩きこまれている。

だからあの日も、マノロブラニクの9センチほどのピンヒールを履いている静香さんを気遣って、タクシーに乗ろうと提案した。すると、彼女は不思議そうな顔でこう言った。

「何でタクシーに乗るの?」

そう言って僕の前をどんどん歩いて行った。

その歩調に似つかわしくなく、静香さんは小柄で華奢だ。紺のメンズライクなジャケットの下はノースリーブのニット、本当に仕事をしているのかと思うくらい小さなサンローランのレザーバッグを持っていた。エネルギーという言葉とは無縁な格好をしているのに、エネルギーそのものみたいな人だ。

そう思い返しながら、手をつなごうと誘われた南青山五丁目の交差点に着いた。


ここから骨董通りを西麻布方面に歩いて行ったら、彼女が旦那と住む家の近くだ。

僕はその場に立ちすくんだ。金曜日と同じ、時刻は25時。経堂行きの最終電車はとっくに終わっている。

また、東京のブラックホールにハマってしまった。

LINEが何通も溜まっている。美月と、一番仲の良い同期、亮からだった。

亮が気付いたフミヤの様子とは…?


最近、フミヤの様子がおかしい。

月曜の25時を回るのに、まだ家に帰っていないようだ。フミヤと連絡が取れないと、美月から泣きの連絡が入った。

入社してすぐに仲良くなったのが、美月とフミヤだった。

美月は社交的で目立つのですぐに仲良くなったが、フミヤは大人しくて何を考えているかよく分からないタイプ。付き合いは悪くないので、人数合わせの食事会に何度か誘ったら、次第に深い話をするようになった。

残業帰りに3人で飲むようになると、美月がフミヤに惹かれていくのが手に取るように分かった。ヤツには、女性を惹きつける何かがあるようだ。

「ちょっと相談があるんだけど」と美月に呼び出されてフミヤへの想いを告白されたあの日。入社以来抱いていた美月への淡い恋心は見事に砕け散った。

電話越しの彼女をなだめながら、今日見てしまったある光景を思い出した。

うちのフロアに滅多に来ないフミヤが、静香さんをじっと見つめていた姿。

普段滅多に感情を表に出さない奴の目が、切なげに苦しんでいて、声をかけるのをためらうほどだった。

「この間の金曜日も朝方に帰って来たの。もしかして、浮気かな?」

美月は今にも泣きそうだった。

次週11.19土曜更新
静香にハマっていくフミヤ。2人の関係に、美月が気付き始める…?

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