外資系アパレルメーカーの宣伝部に所属する大輔(29歳)は、日本での認知度を上げるための、大規模プロジェクトの責任者に抜擢された。これまでにない額の予算が充てられ、プレッシャーを感じながらも、プロジェクトを成功させるべく奔走する。
だが、大輔の大抜擢を快く思っていない者が社内にいるようで、大輔のまわりに不穏な空気が漂い始めて……。
vol.1:仕事で大抜擢されチャンス到来。その時、同僚の妬みが静かに始まる
嫌な予感ほど、よく当たる・・・?
「じゃあ細かい所の直しは明日の午前中にして、今日はもう切り上げよう。遅くまでありがとう。」
木曜22時、大輔はチームのメンバーに礼を述べた。明日の役員プレゼンに向けて、資料作成が大詰めを迎えて皆が残業してくれたためだ。
CM、WEB、雑誌、イベントなど、それぞれの媒体の担当者から上がってきたものを、プロジェクトの責任者である大輔がチェックし、ひとつの資料にまとめる。
モデル、カメラマン、モデルに着てもらうコーディネートの選定など、決めなければならないことは無数にある。自社のブランドに誇りを持ち、こだわりの強い大輔は、予算と兼ね合いを付けながらどこまで自分の理想に近づけるかに苦戦していた。
だが、大輔が社内から選んだチームのメンバーは皆、最高のパフォーマンスを見せてくれている。
―明日のプレゼンも、きっと大丈夫……!
自分に言い聞かせ、メンバー全員が帰ったのを確かめると最後にオフィスを後にした。
明日は、アメリカ本社から来日している役員に今回のプロジェクトのプレゼンをしなければならない。今回日本に割り振られたプロモーション予算は莫大な額で、失敗は許されない。日本での成功を足がかりに、アジアでのマーケットを席巻しようという目論見があるため、本国の役員たちから厳しい指摘が入ることは簡単に予測がつく。
プレゼンが得意な大輔でも、さすがに今日は緊張していた。ベッドに入ってもなかなか寝付けず、朝目が覚めた時も睡眠不足を感じた。
「今日を乗り切れば、大丈夫!」
一人暮らしの部屋で、小さく声を出し自分に喝を入れた。大きく息を吐き、鏡に映る自分の頬を軽く叩く。気合は十分。だが、玄関の扉を出ると嫌な予感を覚えた。
「やばい、今日雨かも……。」
空を見上げると秋らしい爽やかな空が広がっているが、大輔は折りたたみ傘を鞄に入れて自宅を出ることにした。
会社に着き、コーヒーを買ってデスクに向かっているとチームメンバーの一人が駆け寄ってきた。
「大輔さん大変です、17時の予定だったプレゼンが急遽1時間後に繰り上げになりました!なんでも、帰りのフライトが早まったそうで。でもまだ完成してない資料もあるんですがWEBとイベントの担当者に連絡がつかなくて、間に合いそうにありません!」
まくしたてられるように一気に言われ、大輔の寝不足の頭にけたたましく響いた。