「来週のイベント用に発注していたTシャツと販促用品一式が納期までに間に合わないそうです。これじゃイベントも開催できません。業者は、聞いてた納期はもっと後だと言って怒りだすし、収拾つかなくなってます!」
―そんな馬鹿な……!
来週予定しているイベントは、人気インスタグラマー20人を表参道のショップに集めて、この冬『B&AP』が掲げるテーマ「リトル ブラック コート」を大々的に打ち出す大きなイベントだ。
このためにTシャツやノベルティを発注していた。だが、それが一式届かないとなると、イベントを開催する意味がなくなってしまう。
大輔は生まれて初めて、血の気が引くという感覚を味わった。
気付いてしまった、ひとつの違和感。その正体は・・・
―まずい……。いや、だがそんなはずはない……!
業者への発注は大輔が担当した。発注書に記載した納期に間違いはないはずだ。まずはそれを確認しようとデータを確認することにした。すると、確かに納期は、本来より1週間後の日付が書かれていた。
―いや、ありえない……!何度も確認した箇所だ。間違えるはずはない。
そう思ってはいるものの、大きな不安に襲われた。もしかしたら気付かなかっただけで本当に単純なミスを犯したのかもしれない。
―やばい……。やばい……。
手がじっとり汗ばみ、鼓動が僅かに早くなる。周りの音も遠くなり、雑音は聞こえず、自分の息遣いだけが聞こえてくる。
―やばい……。やばい……。
何度も同じ言葉を繰り返していると、大輔は一つの違和感に気付いた。
ファイルの最終更新日時がおかしいのだ。このファイルは会社の共有フォルダに入れていたが、データを更新するのは大輔だけだ。
だが、大輔が触った覚えのない日時に最後の更新が行われていた。
―もっと前にデータは出来てたはず。それにこの日は……。
そこに表示されている日時には、ナオミの買い物に付き合っていたことを思い出した。
―まさか誰かが改ざんした……?
嫌な考えが浮かんだが、すぐに打ち消した。だが、一人の男の顔が浮かび、頭から離れなくなってしまった。
それはあの日、会社に戻った時に一人だけ残っていた有田の顔だ。
次回11月15日(火)更新予定 大輔を陥れようとした犯人が明らかになる!どうする、大輔?!
L.JP.MKT.CH.10.2016.0088
■衣装協力:ネイビータータンチェックスーツ¥74,000(シップス/シップス銀座店03-3564-5547)グリーンニットカーディガン¥35,000(ジョン スメドレー/リーミルズ エージェンシー03-3473-7007)サックスシャツ¥23,000(オリアン/八木通商03-6809-2183)ネイビー×緑×白レジメンタイ¥9,000(フェアファクス/フェアファクスコレクティブ03-3497-1281)靴<スタイリスト私物>