「とにかく、やれるだけやるしかない。」
各担当者に指示を出し、大輔は急いで自分のデスクに行ってパソコンを立ち上げた。ふと外を見るとさっきまでの青空は見えなくなり、ぽつぽつと雨が降り出した。
「やっぱりな……。」
「どうしたんですか、大輔さん。」
「いや、大したことじゃない。ただ、雨が降ってきたなと思って。」
声を掛けてきた後輩は、外を見ると「あ、本当だ。傘持ってこなかったなー。」と言いながら急いで自分の仕事に戻った。
大輔はこのプロジェクトを任されるようになり、数年ぶりに頭痛に悩まされるようになった。頭痛が起こるのは不定期だが、雨が降る日は気圧の変化のせいか頭痛が起こりやすい。最近それに気付き、なんとなく雨の降る日が分かることがあるのだ。
そしてやはり雨のせいか、それとも寝不足のせいか、どちらにせよ頭痛が始まってしまった。
今朝の頭痛はやや重めだ。こんな日に限って大事なスケジュールが前倒しとは……。机に肘をつき、考えるような姿勢で額をおさえる。
この頭痛を抱えたまま、役員の前で最高のパフォーマンスができるとは思えない。
だが、大輔は慌てることなく引き出しから、会社に常備している鎮痛薬『バイエルアスピリン』を取り出し、早速一錠口に含んで水を飲んだ。身体の中でふわりと広がるのを感じながら、焦る心を落ち着けた。
プレゼンまでは1時間を切っている。
「よしっ!」と一言大きな声を出し、書類の取りまとめを始めた。
難局を切り抜けた先には、更に高い壁が・・・?!
「最高でしたよ、大輔さん。さすがです!」
心配していたプレゼンだが、結果は大成功に終わった。
役員からの突っ込みはハードなものが多かったが、準備していた資料と大輔のトークで、日本市場の現況を真摯に解説すると、彼らも理解を示してくれたのだ。
心配していた頭痛も、いつの間にか忘れてしまった。
これでプロジェクトは正式にスタートを切り、忙しさは増すだろう。だが今日はひとまず、大きな局面を乗り越えたことをチームの皆で祝いたい気分だ。
―そういえば、有田さんは……。
チームメンバーでもないのに、大輔のことを気に掛けてくれていた有田にも一言礼を伝えたかったが、有田の姿は見当たらない。
―あ、ナオミにも報告しないと。
ポケットからスマホを取り出し、付き合っているナオミにも無事終わった事を伝えた。
一息着こうと会社の1階でホットコーヒーを買い、オフィスに戻った。エレベーターでは、つい鼻歌が出てしまうほど気分は晴れやかだ。
―今夜は早く帰ってのんびり過ごそう。
そう考えながら席に戻ると、またもチームの皆がざわついており、大輔は今日2度目の嫌な予感に襲われた。
「大輔さん、大変です!」
大きな声で呼ばれ、予感が的中してしまった事を感じた。