翌日、ランチの帰りにドラッグストアに入って頭痛薬を探した。今まで頭痛薬なんて買ったことがなかった大輔は、どれが良いのかわからずじっくり吟味しようと思ったが、シンプルでスタイリッシュなパッケージに目が止まり、鎮痛薬『バイエルアスピリン』をすぐに選んだ。
デザインが気に入ったのはもちろんだが、大輔が好きな映画「ダイ・ハード」で主人公が飲んでいたことを思い出し、迷わずこの箱を手に取ったのだ。
―あの不死身の主人公のように、今回のハードなプロジェクトを乗り越えるんだ!
そんな密かな思いも込めてのことだった。
その後オフィスに戻り仕事をこなしていると、例のごとく頭痛が始まったため、買ったばかりの薬を服用することにした。1錠口に入れ、ペットボトルの水でゴクゴク流し込む。その時、有田に声を掛けられた。
「いい飲みっぷりだな。毎日遅くまで頑張ってるみたいだが、今夜も遅いのか?」
「あ、お疲れ様です。今夜は早めに帰ろうと思います。僕が遅くまでいるとチームのみんなにも気を遣わせちゃいますし。」
「お、さすがリーダーだな。まあ、あんまり根詰めすぎるなよ。」
有田はそれだけ言うと、笑顔のまま自分のデスクに戻った。このプロジェクトが始まって以来、有田が自分の事を気に掛けてくれるようになったことが嬉しかった。
―やっぱり、なんとなくの苦手意識なんて持つもんじゃないな。
さぁ、早く仕事を終わらせて今日は早く帰ろう。
今日やるべき仕事を急いで片づけ、ナオミの買い物に付き合うため早々に会社を後にした。
◆
「やっばいなーあの資料、朝イチの打ち合わせで使うんだった。」
明日の朝直行する打ち合わせに必要な資料を会社に忘れた事を思い出し、ナオミの買い物に付き合ったあと、急いで会社に戻ってきた大輔。
「大輔が忘れものなんて珍しい。よっぽど疲れてるんじゃない?」と心配してくれるナオミに謝り、週末に会う約束をして今日は別れた。
小さな違和感が、やがて起こる大きな事件の布石になるのか・・・?!
エレベーターを降りると、オフィスの灯りはついているが人の気配はなかった。入口でセキュリティカードをかざし、執務エリアのロックを解錠した。ドアを開けると素早く動く人影が見えて、大輔は思わず声をだした。
「うわぁ!」
そこには有田が立っていた。なんだか焦っているようにも見えるが、しんとしたオフィスに突然大輔が現れ、有田も驚いたのだろう。
「なんで、お前がいるんだよ?」
有田から少し強い口調で言われ、大輔は面食らった。
「いや、忘れ物しちゃって。有田さんは、残業ですか?」
「ああ、ちょっと終らない仕事があってな。」
それだけ言うと、少しの沈黙が流れた。大輔はなんだか気まずくなり、自分のデスクへ行って必要な資料を取ると、そそくさと出入り口のドアへ向かった。
「じゃあ、お先です。」
それだけ告げて、オフィスを後にした。有田が以前のように刺々しい雰囲気だったのが引っ掛かったが、残業で疲れているのだろうと思い気にしない事にした。
だが、有田のこの行動により、大輔はこれから大きなピンチを迎えることになるのだが、この時の大輔はそんなことは想像もしていなかった……。
次回11月8日(火)更新
役員相手のプレゼンで想定外の出来事が?!準備不足の大輔はこのピンチ、どう切り抜けるのか?!
L.JP.MKT.CH.10.2016.0084
■衣装協力 大輔:ネイビーダブルニットジャケット¥72,000(ラルディーニ/シップス 銀座店03-3564-5547)白シャツ¥33,000(バグッタ/トレメッツォ03-5464-1158)ネイビーミニチェックパンツ¥27,000(ベルウィッチ/ビームスF 新宿03-5368-7305)グリーンタイ¥9,000(フェアファクス/フェアファクスコレクティブ03-3497-1281)靴<スタイリスト私物> チャコールグレータートルニット¥32,000(ジョン スメドレー/シップス銀座店03-3564-5547)キャメル千鳥チェックダブルジャケット<スタイリスト私物> 青ホームスパンジャケット¥98,000 シャンブレーシャツ¥18,000(ともにビームスF/ビームスF 新宿03-5368-7305)
有田:グレー3Pストライプスーツ¥95,000(ビームスF)青白ロンストシャツ¥23,000(オリアン)緑×ネイビー小紋チーフ¥9,000(ルイジ ボレッリ/すべてビームスF 新宿03-5368-7305)ネイビーツイードタイ¥15,000(ブリューワー/エリオポールメンズ銀座03-3563-0455)ベルト<スタイリスト私物>