「おう、どうしたんだよ大丈夫か?」
「あ、すいません大きい声出しちゃって。実は、でかいプロジェクトのリーダーを任されることになりまして……。」
「まじかよ、先輩の俺を差し置いて!」
有田は口ではそう言いながらも、笑顔で大輔を祝福した。実は、大輔はなんとなく有田のことが苦手だった。だが一番に声を掛けられ、嬉しそうに喜んでくれる彼の顔を見たら、今まで苦手だと思っていた自分を反省した。
「何か力になれる事があれば言ってくれよな」と言いながら席に戻る有田に、丁寧に礼を伝えると、大輔はまたメンバー選定に頭をフル回転させた。
仕事もプライベートも充実。だが、気になる問題が・・・
「う~ん……。」
大抜擢から1週間後、深夜のオフィスで大輔は頭を抱えていた。誰もいないオフィスには、大輔がキーボードを叩く音だけが響く。
広告代理店から上がってきたポスターのデザイン案を見ながら、頭を悩ませているのだ。まだ起用するタレントも決まっておらず、ポスターのデザインも仮のデザインだが、こだわりが強い大輔は、細かく指示を入れていた。
「イケてないな~。うちのブランドのことちゃんと分かってくれてるのかな。」
ブツブツ呟きながらキーボードを叩いていると、デスクに置いているスマホが震えた。見るとナオミからのメールで、残業続きの大輔を心配してくれる内容だった。
ナオミは、付き合って2年になる恋人だ。彼女も同じ29歳で、小学生の数年間をイギリスで過ごした帰国子女。お互い30歳を目前にして、結婚も考えるようになってきた。大輔は、今回のプロジェクトが無事に終わったらプロポーズをしようと考えるようになり、それがモチベーションにもなっていた。
仕事もプライベートも手ごたえを感じる毎日。だが、大輔は一つだけ気になることがあった。
リーダーに抜擢されて以来、稀に頭痛に悩まされるようになってしまったのだ。残業している今も、始まってしまった。
「痛いな~……。」
眉間に皺を寄せ、頭痛がする右耳の上辺りを右手で押さえてみるが、当然頭痛は治まらない。大きな痛みではないが、集中力を途切れさせるような、鈍い痛み。喉の痛みや熱はなく、風邪ではなさそうだ。
大輔はすっかり忘れていたが、大学受験の時や就職活動をしていた時も、こうして頭痛に悩まされた時期があったことを思い出した。
「オレってストレスに弱いのかな?まあ、ひとまず今日は帰るか。」
一人で呟くとパソコンの電源を落とし、この日は会社を後にした。