ラール・エ・ラ・マニエール Vol.4

ラール・エ・ラ・マニエール:元モデルが抱え続ける焦燥感。「何者」にもなれない自分に価値はない?

『ラール・エ・ラ・マニエール』は、人生に迷った者が辿り着くという、不思議な、だけど実在するレストラン。”正しい導き方”という意味を持つこのレストランは、東京での生き馬の目を抜くような生活に疲れた時に、その扉が開かれる。
さあ今夜、その扉の前に現れたのは……?

さらにこの物語に出てくる料理は、実際にあなたも味わうことができます。
あなたの物語も綴ってください。
このレストランで、料理とともに……。

第1話:婚約破棄された美人受付嬢を蘇らせた、あるレストランの物語
第2話:離婚届を突き付けられた男を立ち直らせた、ソムリエの機転と、ある意外な料理
第3話:転落したベンチャー企業の元社長。彼に過ちを気付かせた「王道」の料理とは


『ラール・エ・ラ・マニエール』で「ズッキーニのマリネとモン・サン・ミッシェルのムール貝」を食べている、その女の名は麻紀(34歳)。モデルやタレントとしてテレビや雑誌に出ていた事もある彼女だが、泣かず飛ばずのまま、第2の人生を模索していた。

「有名になることこそ、自分の存在意義だと思っていました。だから、有名じゃない自分に価値はないって……。」

麻紀はそこまで言うと目を伏せて、料理を食べる手を止めた。

それは1時間前……


麻紀はiPhoneでグーグルマップを見ながら銀座の街を歩いていた。

―もうこの辺のはず……―

目的地でぐるりと周囲を見回しやっとその階段を見つけると、階段を下りて重たい扉をゆっくり開けた。

扉の先は柔らかな照明と清潔な香りに包まれ、麻紀の気持ちは少しだけ上向く。だが、それはほんの一瞬で、彼女はすぐに重苦しい気持ちを思い出した。

麻紀は10代の頃からモデルやタレントとして活動していたが、最近では仕事が激減し時間を持て余していた。芸能活動をしているといっても、読者モデルあがりの素人に毛が生えたようなもの。街を歩いて声をかけられるようなことはまずない。

今日は銀座にある事務所へ行き、契約更新なしと告げられた。

麻紀は落ち込んだ時ほど、高くて美味しいものが食べたくなる。そうして近くのレストランを検索し、『ラール・エ・ラ・マニエール』に辿り着いたのだった。


麻紀は、大学進学のため18歳で山形から上京し、原宿で声をかけられた。大学3年の時から読者モデルとして雑誌に出るようになり、事務所にも入った。

それ以来、麻紀はタレントとして成功することを夢見ていた。せっかく上京してきたのだ。麻紀は常に「何者」かにならなければならないという、強迫観念に近い思いに急き立てられていた。だから大学卒業後も就職はせず、芸能活動とカフェのアルバイトで生活していた。その頃から今も、麻布十番に住んでいる。

家賃は約15万円。モデルの仕事で貰えるお金は微々たるものだ。モデルとカフェの収入で住めるような部屋ではない。歴代の彼氏が負担してくれたお陰で、麻紀は不相応な暮らしを手に入れてきた。

広告代理店、テレビ局員、飲食店経営者……付き合う相手の質はどんどん上がった。彼らはみな進んで「家賃ぐらい出すよ」と言ってくれたのだ。

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