ラール・エ・ラ・マニエール Vol.3

ラール・エ・ラ・マニエール:転落したベンチャー企業の元社長。彼に過ちを気付かせた「王道」の料理とは

『ラール・エ・ラ・マニエール』は、人生に迷った者が辿り着くという、不思議な、だけど実在するレストラン。”正しい導き方”という意味を持つこのレストランは、東京での生き馬の目を抜くような生活に疲れた時に、その扉が開かれる。
さあ今夜、その扉の前に現れたのは……?

さらにこの物語に出てくる料理は、実際にあなたも味わうことができます。
あなたの物語も綴ってください。
このレストランで、料理とともに……。

第1話:婚約破棄された美人受付嬢を蘇らせた、あるレストランの物語
第2話:離婚届を突き付けられた男を立ち直らせた、ソムリエの機転と、ある意外な料理


数枚の1万円札をそのままパンツのポケットに入れ、高志(34歳)は銀座を歩いていた。ポケットのお金以外、財布もカードも携帯電話さえ持っていない。

「美味いものが食べたい……」

高志はうわ言のように呟き、以前から行こうと思っていた『ラール・エ・ラ・マニエール』へと続く階段を下りた。



高志は大学卒業後、数年間海外を回った後、帰国後に知り合い意気投合した友人と、スマホ向けゲームアプリを開発するベンチャー企業を始めた。それが面白い程うまくいき、高志本人も驚くほど巨額の資産を手に入れた。それに比例するように高志の生活はどんどん派手になっていった。住む場所も笹塚の1Kから恵比寿、六本木とランクアップし、交友関係も派手になった。

自分たちは時代の最先端にいるのだという自負と、さらなる高みへ向かおうとする野望に溢れ、高志の勢いは留まる所を知らなかった。ゲーム制作に留まらず常に最新のビジネスモデルを求め、交友関係も次々にアップデートした。世の中のトレンドを追い求め、時代の波を乗りこなすのだと意気込んでいたのだ。

23歳で就職、30歳で結婚、32歳で父親になる……そんな”普通”の人生を歩んでいる昔からの友人たちを冷ややかに見ながら、新たに知り合った経営者仲間たちとの豪遊が、高志の日常となっていた。

だが、一瞬で築いた富は失うのも一瞬だった。役員をしていた友人が、ちょっとした行き違いから会社を去ってしまったのだ。すぐに暴走しそうになる高志を制御していた彼がいなくなった途端、坂を転がり落ちるように高志の転落が始まった。

高志はスタッフ、友人、彼女、車、高級マンションを次々に失った。現在は自己破産の手続きを進めており、資産は全て手放した。

―もう俺の人生は終わりだ……。最後に、めちゃくちゃ美味いものが食べたい―

そう思い、今日は久しぶりに銀座を訪れたのだ。

高志は、銀座の高級店には散々通った。会食やデートで、飽きるほど高級な料理を食べてきた。それをもう一度だけ、どうしても味わいたかった。だが、当時通っていたレストランで、今の情けない姿を見られるわけにはいかない。そうして彼は、まだ行ったことがなかった『ラール・エ・ラ・マニエール』に辿りついた。


店に入りウェイティングスペースで待っていると、男性が現れ席へ案内された。
テーブルに着くなり高志は言った。

「メインは特別な一品を出してもらえますか。今、一番新しい最先端の料理を。」

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