2016.09.01
ラール・エ・ラ・マニエール Vol.2銀座3丁目、とあるビルの地下にそのフレンチレストランはある。
『ラール・エ・ラ・マニエール』は、人生に迷った者が辿り着くという、不思議な、だけど実在するレストラン。”正しい導き方”という意味を持つこのレストランは、東京で生き馬の目を抜くような生活に疲れた時に、その扉が開かれる。
さあ今夜、その扉の前に現れたのは……?
さらにこの物語に出てくる料理は、実際にあなたも味わうことができます。
あなたの物語も綴ってください。
このレストランで、料理とともに……。
第1話:婚約破棄された美人受付嬢を蘇らせた、あるレストランの物語
日系証券会社に勤務する直哉(35歳)は区役所に行った帰り、銀座の街をあてもなく歩いていた。彼の右手には離婚届が握られている。
妻の美和子(33歳)が離婚届を置いて家を出てから、もうすぐ2週間が経つ。直哉は離婚届を持って区役所へ行ったが、どうしても提出することができず、そのまま美和子との思い出がつまった銀座を一人で歩いていた。
美和子と一緒に行ったカフェ、レストラン、ブティック……それらの前を歩いては、彼女の笑顔を思い出して焦燥感に駆られるのだった。もう何を言っても美和子が戻ってこないことは分かっている。
だが、離婚届を出してしまうと、彼女と自分を繋ぐものは一切なくなり、2人の楽しかった思い出まで、黒いマジックでぐちゃぐちゃに塗りつぶしてしまうことになるような、恐怖に近い感情に襲われるのだった。
―俺ってこんなに情けなかったのかよ……―
がっくりと肩を落として銀座3丁目を歩いていると、あるサインボードが目に入った。植物をモチーフにしたようなデザインで、中心にはアルファベットで文字が書かれている。
―美和子が好きそうなデザインだな……―
そう思いながら、直哉はふらふらと引き寄せられるように『ラール・エ・ラ・マニエール』に続く階段を下りていた。何の店か確かめることもせず、何かに導かれるように階段の先にある扉をゆっくり開けると、そこはレストランだった。
―せっかくだから、食べて帰るか……―
直哉は案内されるままテーブルについた。だがソファに座っていると、とんでもなく場違いな店に、それも一人で入ってきてしまった、と少し冷静さを取り戻し、後悔していた。
―離婚届片手に、銀座で一人フレンチかよ……―
せめて自分でそう突っ込み、なんとか気持ちを紛らわせる。
前菜のスープはガラスの器に入れられ、コンソメのジュレの上に冷たいカボチャのスープ、リコッタクリーム、ローストしたカボチャのタネ、パッションフルーツのチュイルを順に乗せたものだった。カボチャの甘味とパッションフルーツの酸味が絶妙に混じり合い、つくづく一人で味わうにはもったいない、と思ってしまう。
1杯目のシャンパンとその後のワインで酔いがまわってきた直哉は、聞かれてもいないのに美和子とのことを、ソムリエの吉岡にぽつりぽつりと話し始めた。
「奥さんに出て行かれちゃって……」
そう言って苦笑いを作り、重たくならないよう努める。
吉岡は少しだけ驚いた顔をした後、笑顔になって口を開いた。
「じゃあ私の後輩になりますね。私も経験者です。お気持ちはよく分かります。」
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