精神科医エレナ Vol.8

なぜエレナは、最高の幸せを自ら投げ捨てたのか?東京で狂った、元彼との歯車

慌ただしく、そして力強く、東京を生き抜く男たち。

だがしかし、東京で暮らす男は皆、煌きながらも、密かに心の闇を抱え戦っている。

いくら頑張っても果てしなく渇き続けるそんな東京砂漠に、一滴の雫の如く、彼らの闇を癒す存在がいた。

エレナ、29歳。石川県出身。職業、精神科医。

国産を愛する「崇成」、ピュアすぎる「ケイ」、浮気性の「忠之」、能天気な「輝夫」、強敵の「黒崎」…数々の男たちの悩みを解決してきたエレナ。

そんな中、最愛の元彼「サトル」が上京して…?


同期のインスタで5年ぶりに見た、彼の姿。


黒崎の家からの帰り道。何気なく開いたインスタを見て、エレナはハッとした。

都内で循環器内科医をしている同期の倫子の投稿に、忘れられない顔を見つけたからだ。

―サトル先生の歓迎会!# 循環器飲み # 北海道からようこそ ―

集合写真の真ん中に、彼の姿があった。

慧(サトル)、33歳。北海道出身。職業、循環器内科医。


サトルは、エレナが北大医学部時代に5年間付き合った男だ。

病院実習をきっかけに知り合い、何度目かのデートの帰りにサトルが告白した。

長身で体格が良く、やわらかい笑顔が印象的。細やかな気遣いと明るいノリを兼ね備えた彼は学年でも部活でも中心的な存在だった。

小柄で「清楚風」なエレナと彼は、学校でも有数の好感度カップルだった。

二人は一緒に登校し、図書館で勉強し、家のこたつで鍋をつつきあった。夏には富良野までドライブに行き、冬にはスキーをした。記念日には一緒にケーキを焼いた。

周りからは夫婦みたいだねと言われた。平凡で理想的な二人だった。

穏やかで幸せな毎日に忍び寄る、強烈な恐怖。


あまりに穏やかで幸せな毎日に、エレナはいわれのない不安と重圧を感じるようになった。相談した友人には「倦怠期でしょ?」と言われたが、エレナが感じたのはもっと切羽詰まった強い感情だった。

「この毎日は辛い。でもあなたに直してほしいところは一つもないの」とエレナから別れを告げた。

本当に相性の良いカップルというのは、別れるタイミングまで悲しいほど分かってしまうものだ。彼はこの意味不明のエレナの訴えを、言葉ではないところで理解してくれた。

友達に戻るという約束を守ろうと、別れた直後は定期的に食事に行った。けれどその関係はどこか事務的で、無理があった。

エレナが卒業して上京すると、二人が会うことはなくなった。

【精神科医エレナ】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ