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  • 野心のゆくえ Vol.2

    野心のゆくえ:会社員に限界を感じ、起業を果たした30歳。順調に業績を伸ばすも、1年後は……?

    サービス開始後は、苦手だった営業にも精をだした。
    年配の社長が相手の重要な会食では、ダイナースクラブの料亭プランを使って勝負にでた。一見さんお断りの高級料亭でも、予約代行をしてくれるため、社長からは「ここを予約するとは、若いのにやるなぁ」と見直された。

    営業の頑張りが実り、会社は徐々に軌道に乗り始めた。まだまだ大きな収益はないが、自分が作ったサービスを使ってくれる人がいることに充足感を覚えた。


    私生活にも少しの余裕が戻り、最近では父の日や母の日にはダイナースクラブのサイン不要のサービスを使って、両親をレストランへ招待した。父の日はコンラッド東京の『チャイナブルー』を、母の日には銀座の『ベージュ アラン・デュカス 東京』を予約して食事を楽しんでもらった。「会計はこっちで済ませるから、二人は食事だけ楽しんできて」と伝えると思っていた以上に喜んでくれ、少しは親孝行できているかなと翼も嬉しくなった。

    他にも、3月に京都出張が入った時は優香も呼んで、昼間は京都の観光とグルメを堪能し、夜はダイナースクラブが毎年開催する、醍醐寺の観桜会へ行った。一般拝観が終わった夜の醍醐寺を貸し切り、樹齢約190年のしだれ桜がライトアップされた姿を見ながらの食事は格別だった。

    翼もこの桜のように強く大きく、生きて行こうと気持ちを引き締めたのだった。



    29歳になった優香は、今も一番近くで翼を応援していた。

    優香を必死に口説いていた園田とも、やはり付き合う気にはなれなかった。だが、翼から「結婚」の2文字が出てこない事には大きな不満を持っている。




    翼から「会社を辞めようと思う」と言われた時は、本当に別れようと思った。だが、夢に向かって頑張る彼を、素直に応援したいと思えたし、そのタイミングで別れを切り出すのは酷なことに思えたのだ。

    信じた通り、翼は自分の会社を始めて、順調に業績を伸ばし、最近はやっと時間の余裕もできたようだ。

    ―この勢いに乗って結婚まで進めば理想的―

    そう思っていた矢先に、また翼が「忙しいから、しばらく会えない」と言ってきた。「また?最近余裕ありそうだったじゃない?」と聞いても彼は「ごめん」としか言わない。

    それから本当に、前以上に翼と連絡が取れなくなった。

    ―まさか、社長になったからって調子に乗って浮気?―

    そんな疑いもでてきた。だが何を聞いても「違うよ、浮気なんかしない。本当、ごめん」としか言わない彼に、優香の怒りは爆発寸前だった。

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