港区ラブストーリー Vol.6

港区ラブストーリー:2011年東京タワーの下で「恋愛と結婚は別物」と割り切った女の決意

東京都港区。

東京の中心であるこのエリアには、数多くの“ロマンス”が詰まっている。ドラマみたいな出来事や、ドラマ以上の出来事が港区で過ごしていれば、降りかかってくることもある。

この“港区ラブストーリー”は、2007年に出逢った26歳の女と24歳の男の2016年までの恋模様、“あの日、あの時、港区で”の様子を描き出していく。

2007年、麻布十番で知り合った、ラジオ局勤務のさとみとテレビ局でADをしている潤。

ある日、さとみは仕事のピンチを潤に助けられたのをきっかけに、二人の中は急接近し付き合うことに。麻布十番で半同棲生活を送るなど、幸せな日々を送っていたがひょんなことから潤の度重なる浮気が発覚し、二人は別れてしまい……。


2011年、東京タワーの先端が曲がる


潤と別れて以来、さとみは仕事に没頭していた。仕事をしていなければ、友達と会っていても、買い物をしていても、すぐに潤の事を考えてしまう。仕事をしている時が一番、潤の事を考えずに済んだ。

夏になり、東京はいつもの日常を取り戻し始めていた。3月の震災以来なんでもない日常が、いかに幸せであるかをさとみは痛感した。同時に、人生を一緒に歩むパートナーの大切さも身にしみた。

震災を機に、さとみは心機一転、婚活を始めていた。潤からは何度も連絡がきていたが、彼とよりを戻すという選択肢はない。また連絡をとれば、気持ちが蘇ってしまうのが自分でもわかっている。だからさとみは全てを無視して前だけを見ることにした。

さとみは30歳になるのだ。無駄な恋愛に使う時間はない。焦りと寂しさが、彼女の背中をぐいぐい押していた。

そして現在、さとみには同期の菜々子の紹介で2回デートした相手がいる。勤務医をしている38歳の博己だ。ややキツネ目で薄く個性的な顔だが、背が高くスタイルは抜群に良い。

潤がいたテレビ業界とは違い、医者というステータスも正直な所魅力的だった。博己もさとみを気に入り、年齢的に結婚も意識しているようだった。

よく聞く「恋愛と結婚は別」という言葉が、さとみには痛いほど実感できた。いくら社会的ステータスが高くても、自分がもっと若かったら果たして彼と付き合っていただろうか……。きっと博己のことは選んでいないだろう。認めたくはないがそう思う。

自分の現実主義的な一面を初めて知り、さとみは驚いていた。潤には恋をしていたと自信を持って言える。だがこれから先も、博己に恋をするのか、さとみには自信がなかった。ただ、京都出身の博己がたまにだす京都弁は、気に入っている。

―そうよね、そうやって彼の良い所を見つけて、それを増やしていけばいいのよね―

さとみはそう自分に言い聞かせるのだった。

3回目のデートは、彼の希望で土曜日の昼間に会うことになった。30歳にもなると、最初の内から明るい時間に会うのは抵抗もあるが、逆に新鮮でもある。

博己は「鰻が食べたいから」と言って芝公園近くの『野田岩』を指定してきた。さとみは歩いて行こうと思い、麻布十番から桜田通りへ向かった。赤羽橋交差点の、あの開けた景色がさとみは好きで、遠回りになってもこのルートを選ぶ事が多い。

大きな交差点で、空は広く、東京タワーは足元近くまで見える。何度通っても飽きない景色だ。東京タワーを見上げると、地震で曲がってしまった先端は、まだそのまま。いつ元にもどるのだろうかと考えながら、さとみ店へ向かってさらに歩いた。

その頃潤は、抜け殻のような毎日を送っていた。酔ってしまうと理性をなくす自分を、心底軽蔑した。さとみを失い、取り返しのつかない事をしてしまったと数え切れない程後悔している。何度さとみに連絡しても、彼女からは一切を遮断されている。

互いに家が近いのだから、偶然会うことにも期待したが、それはまだ訪れていない。

ある日ロケハンのため、潤は一人で芝公園に来ていた。良く晴れた土曜日の昼間、ベンチに座ってこのまま昼寝したい衝動に駆られていた。

―ダルいなぁ。せっかくの土曜なのに……―

潤は予定通り周辺の店をいくつかまわり、会社に行くか自宅で作業するか迷っていた。

―最近ろくなもの食べてないし、たまには美味いものが食いたいなぁ……―

さとみに去られて無気力状態の潤は、ぼんやりと考えていた。スマホで周辺の店を探す。目に止まったのは鰻の『野田岩』という店だった。

―ちょっと高いけど、たまにはいっか―

潤は勢いよくベンチから立ち上がり、目的の店へと歩いた。

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