2024.09.21
SPECIAL TALK Vol.120
家族経営ではないビジネス農業との出合い
金丸:自然の中でのびのびと成長された浅井さんですが、勉強はいかがでしたか?
浅井:中高一貫の進学校に通っていましたが、高校時代にドロップアウトしかけたことがあります。
金丸:何か悪いことでも?
浅井:いえ、悪いことはしてませんよ(笑)。ただ、もやもやしていたんです。社会に対する反発のようなものを感じていたし、農家の後は継ぎたくないという思いもあって。
金丸:じゃあ、後を継ぐことに相当悩まれていたんですね。
浅井:当時は、実家が農家ということに誇りを感じられなかったんです。でも、道を踏み外しそうになった時、ある先生が「大学だけは行っとけ」と。それで神戸の甲南大学に。
金丸:甲南大学ですか。私は神戸大学だったので、親近感が湧きます。
浅井:東京農業大学と日本大学の農学部にも合格したんですが、農業系に行ったら後を継がされると思って。
金丸:たしかに、親御さんからの期待値は高まりますよね。
浅井:それで、あえて甲南大学だけ理学部を受けていたんです。で、受かったので迷わず甲南を選びました。だけど振り返ると、農業関係の大学を受験している時点で、「継ぎたくないようで継ぎたい」みたいな思いもあったのかもしれません。
金丸:継ぐなら東京農大に行ってもよかったんでしょうけど。
浅井:ただ、結果的には甲南でよかったと思っています。大学で普通に農業の勉強をしていたら、今の私は無かったかもしれません。大学1年生の夏にアメリカの農業の現場を見て衝撃を受けたことが、その後の私の人生を大きく変えましたから。
金丸:具体的にはどのような体験をされたんですか?
浅井:入学後、相変わらず悶々としている私に、父が「アメリカでのインターンシップがあるけど」と教えてくれたんです。それで、ワシントン州の農場で3ヶ月間、サマーインターンシップに行くことに。アメリカの農務省のプログラムでした。
金丸:どんな職場だったんですか?
浅井:社員200人ぐらいの種苗会社でした。そこで生まれて初めて、ビジネスとしての農業を見ましたね。自分の家で見てきた家族経営の農業と比べて、正直「自分の家も日本の農業も、こんなふうになりたい」という憧れと、「このままじゃ、やばいんじゃないか」という危機感の両方を抱きました。それで一気に燃え上がって。
金丸:悶々としていたところに、燃料が注がれて、いい方向に爆発した。
浅井:それからはもう何の未練もなく、世界中の農業を見て学ぼうと、大学の勉強はせずにバックパックで世界各地を回っていました。
金丸:浅井さんの“農業を継ぎたくない”オーラを、お父様はきっと感じていらしたと思います。だからこそ、アメリカに行かせて、何かを感じてほしかったんじゃないかと。
浅井:祖父が地元を植木の産地としてさらに盛り上げたということもあって、父からは「雄一郎は長男として農業を継ぐんだ」みたいに、ずっと言われてきました。そんな父に反発していたんですけどね。
金丸:でも、いいタイミングで、いい発破をかけてくれましたね。策士のようにも感じますが(笑)。
浅井:いや、普段はすごく静かなんですよ。今になって、父はずっと見守ってくれていたんだなと。そういう意味では、とても愛情深い人です。
金丸:ちなみにお母様は?
浅井:母もあまり語らない人で。ただ、中学1年生の時に父親を交通事故で亡くしたことや、道徳教育に力を入れている高校に通っていたこともあって、いつも「人のために、何か役に立つことをしなさい」と教えられました。今の自分を見ると、両親の影響はかなり大きいと感じています。
何をやってもつぶれるなら、やりたいことをやろう
金丸:大学を出て、すぐに実家を継がれたんですか?
浅井:いえ。農協のコンサルティングなどをしている企業に就職しました。大学3年生の時に、日本の農業が発展する上で一番のネックになっているのは、農協だと感じて。
金丸:すごい。私なんて、農協改革に携わるまで考えたことすらなかったので。
浅井:「農業に携わるなら、仕組みを変えるか、海外に行くかの二択だ」と思っていたんです。最初から「ひとりの農業者」という道もあったけれど、当時の自分には何の力も能力もない。それに就職できなかったら、海外に行くつもりでした。
金丸:インターン以来、本気で燃えていたんですね。しかし、間近で農協を見ながら力をつけるというのは、いい選択肢だと思います。農協にフォーカスしたのは、実家での経験も影響しているんですか?
浅井:祖父が専門農協を立ち上げたという話をしましたが、周りの植木農家もJAとはほとんど関わりがなかったと思います。だから経験というよりも、勉強するうちにという感じですね。「農家は貧しくあれ」みたいな意識が、日本はどうしてこんなに強固なんだろうと疑問になって。
金丸:「貧しいんだけど、日本の礎だ」みたいな。でも「礎なのに貧しいのはおかしい。世の中の構造を変えていかなきゃいけない」と浅井さんは考えたんですね。
浅井:日本の農家がいつまでたっても貧しいのは、協同組合としての仕組みが機能してないからじゃないかと。それを探りたかったんですが、入社して手掛けた仕事が信用・共済事業の利益の最大化とか、不採算事業のリストラとか。「これじゃ意味がないな」と思って、2年ほどで辞めました。その後は、ベンチャーを経験してみようと、環境関連のベンチャー企業のレノバに転職しました。
金丸:東証プライム上場企業ですね。
浅井:当時はリサイクルワンという社名で、メンバーも10人くらいしかいなかったので、ゼロからの事業立ち上げも経験しましたね。その後、28歳で三重に帰りました。
金丸:いよいよ農業を継いだ。その当時、農園の売上はどのくらいだったんですか?
浅井:4,000万円くらいです。それに対して借金が、2億6,000万円あって(笑)。
金丸:なかなか強烈ですね(笑)。
浅井:このままだと何をやってもつぶれる。だったら背水の陣で、自分のやりたいことをやろうと。
金丸:そう聞くと、家業がツツジとサツキでよかったかもしれません。もし米農家だったら、国から補助金も出るし、「まだ何とかなるかも」と続けていたかもしれない。
浅井:私が三重に戻ってからの最初の仕事は、植木を全部切ることでした。売れ残って規格オーバーまで育ってしまえば、どうしたって売れない。だからチェーンソーで切る。2〜3年かけて肥料をまいて育てた植木をひたすら切るんです。
金丸:やりきれないですね。だけど、そこで「このままでは未来がない」と気付いて何かアクションを起こせば、可能性が広がるし、未来を自身で変えることができます。
浅井:その時は、最悪つぶれたとしても別のところで働けば、家族だけは養えると考えていました。だから、やりたいことに挑戦しようと。
金丸:それに、浅井さんはきちんとビジネスを学んできたからこそ、挑戦できたんじゃないかと思います。ところで、最初からトマトを作ろうと思っていたんですか?
浅井:そうです。実は私、トマトが子どもの頃から苦手で。今も苦手なんですが。
金丸:えっ!?日本で一番トマトを作っているのに(笑)。
浅井:ただ、苦手なのに感動したトマトがあって。レノバのクライアントに静岡の肥料会社さんがいらして、トマトの新しい栽培方法を立ち上げるためのお手伝いをしたんですよ。その時に食べたミニトマトが、めちゃくちゃおいしくて。
金丸:固定観念をひっくり返すくらい、おいしかったんですね。
浅井:三重に戻った時、会社はつぶれかけているし、お金はないし人もいない。無い無い尽くしのなかで、唯一の経営資源が農地でした。この農地を使って何をやるかを真剣に考えた時、「トマト嫌いでも食べられるトマトをやるしかない」と。
金丸:トマトが苦手だったから、なおさら感動した。そんなきっかけで起死回生の一手が見つかるとは。
浅井:でも、最初のうちは収入がないので、昼間は庭の剪定の仕事をやって食いつないでいました。剪定の仕事を終え、夜はトマトの仕事をする。そんな生活を続けていましたね。
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