2024.03.05
今日、私たちはあの街で Vol.4「はぁあ…。落ち着く」
赤坂から歩くこと20分。上智大学に到着した瑞稀は図書館に入り、いつもの席に荷物を下ろした。
― あと数週間で、ここには気軽に来られなくなる。参考書を読んだり、試験対策をしたり、論文執筆に明け暮れる日々は、終わり…。
6年間どっぷり浸かってきた、国際開発や地域経済といったアカデミックな世界を離れることの寂しさ。
しかし、瑞稀が後ろ髪を引かれる理由は、それだけではなかった。
― 来月から、社会人。これも、いいかげんに処分しないとね。
目線の先には、背負ってきた大きなリュック。中には国家試験の対策本が数冊入っていた。
去年の夏、瑞稀は国家公務員総合職試験に落ちた。
申込者は約15,000人。倍率8倍の難関だが、その中でも外務省に行けるのは30人程度と一層狭き門だ。
説明会やセミナーでさんざん官公庁へ通い、霞が関の街にも馴染んできた気がした。けれど、そのタイミングで味わった挫折──。
― 再挑戦したところで、選考通過は難しいってわかってる。
外務省勤務という夢をあきらめきれず、この春に実施される翌年度採用試験に申し込みは済ませてあった。
瑞稀はパソコンを開き、幾度となく確認した外務省総合職の採用実績を眺める。
そこに、上智大学の名前はない。
東大卒が過半数を占め、早稲田、慶應出身の大卒男性がパラパラと後に続くというわかりやすい構図だ。
出身大学以前に、女性であること、院卒で年齢を重ねていることもまた不利なように感じてしまう。
― 面接のたびに、「華やかな経歴ですね」って皆言うけれど。
皮肉なことに、一見華やかでエリートらしい瑞稀の経歴は、外務省の採用実績に照らすと不利な条件ばかりが揃っているようだ。
ぐずぐずと考えることを放棄して、天井を見上げる。すると瑞稀のお腹が「ぐぅ」と鳴った。
― あ。今日、朝から何も食べてないんだ…。
あたりを見回すと、大学構内は春休みのためか人気がなく、ひっそりとしている。
なんとなく雑踏が恋しくなった瑞稀は、ふらふらと紀尾井町へと向かった。
― 朝から活動して、どっと疲れた。甘いものが欲しい!
東京ガーデンテラス紀尾井町を歩いていると、色鮮やかなケーキの並ぶショーケースが瑞稀の目に止まる。
― 『ラ・プレシューズ』、お茶もできるんだ。テラスもある…。よし!美味しいケーキでも食べよう。
テラス席に座りプチティースタンドと紅茶をオーダーした瑞稀は、分厚い旅行ガイドブックをリュックから取り出した。
表紙に大きく描かれた国名は「インド」。
海外が好きで世界各国を一人旅してきた瑞稀だが、インドは未踏の地だった。
いつか行ってみたい。そして行けるのは長期休み、すなわち今なのでは…と思う。
その一方で、社会人になるための準備が必要では?はたまた、再試験に向けてもっと勉強すべきでは?と、進路が定まらない故、悩み続けていた。
しかし、ガイドブックのページを捲るごとに、旅路を想像しながら地図をなぞるごとに、ワクワクする気持ちは高まっていく。
すると突然、隣に座っていた人物に声をかけられた。
「お姉さん、インドに行くの?」
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