麻布には麻布台ヒルズ。銀座には、GINZA SIX。紀尾井町には、東京ガーデンテラス紀尾井町…。
東京を彩る様々な街は、それぞれその街を象徴する場所がある。
洗練されたビルや流行の店、心癒やされる憩いの場から生み出される、街の魅力。
これは、そんな街に集う大人の男女のストーリー。
▶前回:「息子は絶対インターに!」自身もインター出身の女が、挫折することになった“ある理由”
Vol.4 『今しかできないこと/東京ガーデンテラス紀尾井町』瑞稀(24歳)
― やっと終わった!みんな、ソワソワしだしてるな…。
3月初旬の土曜正午。学生たちの声が少しずつ響きだす、赤坂のカンファレンスホール。
上智大学大学院に通う大学院2年生の瑞稀は、外資系化粧品会社の入社前説明会に出席していた。
修士論文の提出も終えて、大企業への就職先も決まり、瑞稀はキラキラと希望に満ちた春を迎えてもいいはずだった。
しかし、その表情は晴れやかでない。
「瑞稀ちゃん!この後ランチでも行こうかってみんなで話してるの。よかったら一緒にどう?」
休憩中に自販機の前で言葉を交わした、ツヤツヤのショートボブヘアの女の子が、瑞稀に声をかけてくれる。
同じ上智大学出身ということだったが、大学4年生の彼女は、数人の同期を引き連れてリラックスした笑顔を浮かべていた。
「ありがとう。残念だけど、この後予定があって。また、4月に」
そう言って瑞稀は彼女たちに軽い会釈をし、コートを羽織って出口へと向かった。
― 2時間半ここにいただけで、息が詰まって仕方がない。
瑞稀はこの浮ついて落ち着かない様子の人混みから早く離れて、外の空気を吸いたかった。
続々と会場から出てくる、どこか誇らしげで希望に満ちた様子の学生たち。
4月から同期になる予定の彼らを尻目に、瑞稀は足早にエレベーターホールを目指した。
エレベーターに乗り込むと、窓からは見慣れた霞が関の景色が見える。
― 霞が関…。あまり目にしたくないな。
エントランスを外に出た瑞稀は、霞が関のビル群に背を向けて、真っすぐに前を向いて四谷方面へと歩き出した。
この記事へのコメント
それにいきなり声かけられた他人とこんなにいろいろ話すとか、ちょっと。