麻布には麻布台ヒルズ。銀座には、GINZA SIX。日本橋には、コレド室町…。
東京を彩る様々な街は、それぞれその街を象徴する場所がある。
洗練されたビルや流行の店、心癒やされる憩いの場から生み出される、街の魅力。
これは、そんな街に集う大人の男女のストーリー。
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Vol.3 『18年越しの答え合わせ/コレド室町』さくら(36歳)
― 今回はフランスからのお客様か。どうしようかな。
外務省で働くさくらは、コレド室町で手土産を探していた。
来週に控えた、海外からの来日客を迎えるためものだ。「長旅おつかれさまでした」の気持ちを込めて、さくらはいつもお客様に小さなプレゼントを渡すようにしている。
江戸時代の日本橋の賑わいを再現したというコレド室町には、日本の伝統や歴史を感じさせる、気の利いた工芸品やおやつが豊富に揃っている。
商店や問屋で栄えた中央通り、魚河岸の名残を感じさせる老舗店、浮世小路と福徳神社──。
界隈に漂う「日本らしさ」は、日本で生まれ育ったさくらにとっても心地よく、楽しいものだ。
― 金沢金箔専門店の金箔スイーツは目を引くし、小さな食器やコスメも喜ばれそう。あ、和菓子ならフルーツを丸ごと使った大福もインパクトがあっていいかな…。
日本に来てすぐのお客様が、何を手にしたら喜ぶか。そんなことを考えながら仲通りに出ると、見覚えのある男性が目の前を横切った。
― え…譲司?いや、まさかね。
ドキン、と心臓が高鳴る。
仲通りを飾る、特徴的な⾊とりどりの提灯。柔らかな光の下を歩く彼の横顔をなんとか観察する。
背は高くないものの、がっしりとした肩幅と胸板。黒々として凛々しい眉に、満足そうに微笑みをたたえた大きな瞳。
譲司の懐かしい面影を確かに感じる。
譲司は、さくらの古い友人だ。幼少期に通っていた横浜にあるインターナショナルスクールで、同級生だった。
高校生までは家族ぐるみで付き合いがあったが、あれから18年。もう人生の半分は顔を合わせていないことになる。
― 彼が東京にいるはずないのに。でも…私が譲司を見間違えるわけない。
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