
美味が集まる都心のエアポケット。今、歩くべきは神山町
自然と文化を繋ぐ道に人の流れを生む新店
美味しいもの好きは今こそ渋谷神山町へ! 渋谷駅と小田急線の代々木八幡駅との間、つまりどっちの駅からもちょっと遠い昔ながらの商店街にここ数年、魅力的な店が続々と生まれている。井ノ頭通りを越えると代々木公園があり、渋谷側には美術館や劇場などを備えた「Bunkamura」がある。都会の真ん中で自然とカルチャーを結ぶこの道。これからの季節、昼下がりの散歩、そしてディナーという流れにはうってつけだ。
プティ バトー
プティ バトー
井ノ頭通りから3分ほどの場所に建つ『プティ バトー』は昨年2月のオープン。オーナーシェフの笹川幸治氏が代々木上原で8年続けた店を移転したのだが、プリフィクスコースを供するレストランからわずか8席のみのカウンターフレンチへとスタイルを変えた。
「前の店のお客様にも来ていただける場所だし、商業エリアと住宅地の中間のような町の雰囲気も気に入ったから」と笹川シェフ。ここではサービスもひとりでこなすが、「料理の中身はレストラン時代のまま。ひと皿をバラしてお出ししている感じです」と話す。
付け合わせだったサラダなどを前菜として独立させることで、食べ手の選択肢は格段にアップ。シェフの話を聞き、あるいは手元を覗き込み「食べたい!」と思ったものを頼む。そんな風にしてカウンターに次々と皿が並ぶうちに、隣り合う客同士が別段話をしなくとも、心地よい一体感が生まれるのだ。
ピニョン
Pignon
そこからやや渋谷方面に進んだ先にあるのが昨年7月にできた『ピニョン』。通りに面した窓は開かれ、店の奥には中庭も見える風通しの良い店だ。
「1年以上かけて物件を探したが、この開放感がイメージ通りだった」と、オーナーの吉川倫平氏。都内の老舗ビストロを皮切りにフランスはボルドーでの修業も経験した吉川氏だが、ビストロ料理とメニューに並ぶ自家製のメルゲーズやモロッコ風サラダなど、マグレブ風の料理が店のウリ。旅先のモロッコで「スパイスの洗礼を受けた」と話すが、暗めの照明が黄色の壁を浮かび上がらせるエキゾチックなインテリアにも、旅の記憶が色濃く反映されている。
ふらりと通りを訪れた若者にも「入ってみたい」と思わせる店構えで、松濤の住宅街に住む手練の食べ手をも魅了する料理を出す両店。
今宵も神山町ではひとり、またひとりとフレンチファンが生まれているはずだ。