SPECIAL TALK Vol.107

~未曽有の事態に直面して生まれた医療の新しいカタチ~

金丸恭文氏 フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長

大阪府生まれ、鹿児島県育ち。1989年起業、代表取締役就任。


高齢化する日本だから、世界的課題を解決できる


菊池:オンライン診療の普及によって、医療資源をさらに有効活用できるようになり、患者さんの医療アクセスも大きく向上したように思います。そして、埼玉県や旭川市の事例のように、従来の医療体制がより効率的で質の高いものになったことをお示しできるようになってきました。

金丸:コロナ禍に限らず、平時にも大きな効果をあげられるのではないでしょうか。

菊池:高齢化が進む日本においては、医療の労働生産性を上げることは喫緊の課題です。これは日本だけの問題じゃなく、世界に共通する課題です。

金丸:先進国はどこも少子高齢化が進んでいます。

菊池:実は、世界の医療福祉分野での労働生産性の改善率は、年1%もありません。一方で、市場は年5%以上のスピードで拡大しています。

金丸:このままだと、どこかで需要が供給を上回ってしまいますね。

菊池:労働集約的なビジネスモデルから脱却しない限りは、この課題は解決ができないと思っています。近年では、電子カルテやWEB問診など、診療外業務を効率化するソリューションが増えてきています。一方で、診療そのものの生産性を改善するソリューションは、まだ一般的ではありません。

金丸:診療そのもの。なかなかハードルが高そうですが。

菊池:関心があるのは、プライマリ・ケアの領域です。糖尿病や高血圧といった生活習慣病は世界的にも患者数が多く、医療費の多くを占めていますが、そうした診療の生産性をどのように高めていくか、ということに注目しています。

金丸:なるほど。生活習慣病は、緊急の対応が必要になることは少なそうですね。

菊池:この分野は、オンライン診療に、RPM(Remote Patient Monitoring)やDTx(Digital Therapeutics)といった技術を組み合わせることによって、対面診療でなくても質の高い医療を提供できるようになります。精神疾患の領域では、音声という新たなバイオマーカーを用いて、AIがうつ病などを診断する技術も進歩しています。医師ではなくても診断や治療が進められる技術が発展していくと、医師不足が深刻な国においても良質な医療が受けられる世界がやってくるかもしれません。

金丸:医療界はかなり保守的な業界ですが、ぜひ菊池さんに挑戦していただきたいです。ちなみに、ファストドクターに登録されている医師は、現在何人いらっしゃるんですか?

菊池:約3,500人です。

金丸:たったふたりで始めたのが、3,500人まで!それだけ社会に必要とされているということですね。登録されている方は、やはり兼業の方が多いのですか?

菊池:そうですね。3割が大学病院、5割が一般病院、残りが開業医という割合です。

金丸:大学病院勤務の先生たちが、そんなにいらっしゃるんですね。

菊池:医師は日々、自身のスペシャリティを高めることに取り組んでいます。ただ、大学病院はポストが限られているので、なかにはジェネラリストとして開業を決断する医師もいる。でも大学病院には、ジェネラリストとして研鑽する場がないんです。

金丸:ということは、ファストドクターは医師にも求められているサービスだといえます。年齢層はいかがでしょう?

菊池:20代後半、30代前半、30代後半、40代がそれぞれ4分の1ずつといった感じです。比較的若い方が多いです。

イノベーションが起こりやすい医療界に変えていく


金丸:医療に限りませんが、イノベーションを起こせるのは若い世代です。そして、イノベーションで生まれた新しいやり方やシステム、デバイスにどうしても対応できない人たちも一定数います。こうした人たちには、今の延長上で頑張ってもらえばいい。

菊池:そうですよね。「全員が新しいやり方でやってください」だと、ハレーションが起きるでしょうし。

金丸:菊池さんの場合、ファストドクターの医師たちがついているのが心強いですね。

菊池:ありがたいことに。私は、もっとイノベーションが起きやすい土壌づくりが必要だと思っています。そのためには多様な価値観を受け入れる必要性を感じ、一時期、毎月のようにいろいろな業界の人たちに会っていました。

金丸:医者でそういう動きをする方は珍しいですね。

菊池:そう思います。業界が違うから共通言語もなくて、最初のうちは大変でしたが、徐々に慣れてきて。そのとき「医療界は多様な文化を受け入れる姿勢が足りないな」と感じました。

金丸:なんとなくわかります。生涯、医師以外の職業を経験しない人は多いだろうし、ずっと同じ病院に勤める人だっていますよね。専門が細分化されていると、なおさら世界が狭くなっていきそうです。

菊池:そうですね。僕自身も自分の選択肢を「大学病院の教授になる」「一般病院の部長になる」「開業する」の3つしかないと決めつけていましたから。

金丸:それが、いろいろな人と会ううちに違う可能性に気づいたんですね。

菊池:日本の医療業界が進化していくためには、イノベーションの創造だけでは不十分で、医療業界がイノベーションを受け入れる土壌づくりをしていく必要があります。そのためにも、医療職が多様な価値観を理解し、受け入れることのできる文化づくりが必要だと思っています。そのような文化を、ファストドクターというコミュニティからスタートして、全国へ広めていきたいと思っています。

金丸:時間はかかると思いますが、きっと実を結ぶはずです。

菊池:大きな変化を生み出すには、10〜20年はかかるだろうなと覚悟しています。

金丸:そうした覚悟を持たれているのが、素晴らしいことだと思います。菊池さんとファストドクターの医師たちが、日本、そして世界中の医療の未来をきっと切り拓いてくれることでしょう。これからも応援します。今日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。

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