SPECIAL TALK Vol.103

~個人の適性に見合った教育で日本の変革を目指したい~


中国留学や日本観光、さまざまな出会いを経験する


金丸:中国への留学は楽しかったですか?

サコ:刺激的でしたね。日本人に会うのも、アメリカ人に会うのも初めてでした。当時は文化大革命直後で、中国は世界から非難されていました。それでも各国からたくさんの留学生が来ていた。ロシア人もドイツ人も北朝鮮の人も。いろいろな人がいたし、同じアフリカ人でも、くせも違えば料理も違う。

金丸:サコさんの中で、一気に世界が広がるきっかけになったんですね。

サコ:それまでフランス語で教育を受けていたから、フランス語が世界で一番だと思っていました。でも当然、中国語を学ばなきゃいけない。ただ留学生同士は英語で話していたので、英語が世界的権威であることを、そのとき初めて知りました。

金丸:文化大革命後、世界中から叩かれる中で、多くの留学生を引き入れていたのは、中国の戦略ですよね。

サコ:だから、私たちの置かれた環境は特別だったと思います。でも、どの国も中国とどう関わっていくかを考え、準備するために留学生を送り込んでいた。あの頃、一緒に学んだ同級生たちがどうなっているかを見ると、大使だったり外交官だったり、みんな母国に帰って偉くなっているんですよ。

金丸:サコさんも、留学した当初はマリに帰るつもりだったんですよね。それがなぜ日本に来ることになったんですか?

サコ:それが、中国で学位を取って、いざ帰るとなったとき、マリの経済状況が悪化して、新しく公務員を雇うことができなかったんです。だから奨学金の延長申請をして、中国で大学院まで通うことにしました。日本に初めて来たのは、大学院入学直前の長期休暇のときですね。

金丸:初めての日本はいかがでしたか?

サコ:楽しかったですよ。中国で知り合った友だちの実家に泊めてもらいました。東京都豊島区の商店街で、1階がコーヒーショップ、2階が住居になっている家でした。私は建築の研究をしていたので、東京の建築物に刺激を受けたし、商店街という文化がまたよかった。みんな顔見知りで支え合っているのは、マリに似ていました。

金丸:長屋的な文化ですね。

サコ:都会の商店街の中なので、家としては狭いんですが、お父さんとお母さんの布団の横に、われわれマリ人が3人寝て。

金丸:えっ。3人で押しかけたんですか(笑)。

サコ:そうですよ(笑)。肝心の友だちは留学中で家にいないけど、親御さんも娘の友だちだからと快く「泊まっていい」と言ってくれて、遠慮なく。今となっては日本の文化を学んだけど、当時のわれわれ3人は、完全にマリ的感覚で訪ねました。

金丸:ということは、サコさんを見送りに来た親戚と同じ感覚ってことですか?平気で1ヶ月滞在するという。

サコ:そうです。だから親御さんも心配しはじめて。私たちは日本語が分からない状態で来ているから言葉も通じないし、帰るそぶりも見せない(笑)。親御さんは娘の友だちを呼んで、連日食事会を開いてくれましたが、数日経つと通訳みたいな立ち位置の人が現れて、「お帰りはいつですか?」とさりげなく聞いてくるんです。

金丸:そりゃ、聞いてくるでしょうね(笑)。

サコ:だけど、マリの感覚だと帰りの日にちを言ったら失礼なんですよ。それにいつ帰るかなんて本当に決めていなかったので、「まだ分からない」と答えて。

金丸:ますます不安になる(笑)。

サコ:その次の日、また別の人が来て「いつ帰るんですか?」「まだ分からない」(笑)。そういうやり取りが続いたある日、親御さんがいきなり祇園祭の写真を持ってきて、「これ、京都の祭だけど、見た方がいいよ」って。

金丸:追い出しにかかった(笑)。

サコ:でも私は東京や商店街を魅力に感じていたから、「京都に興味ない」って。

金丸:それで、どうなったんですか?

サコ:最終的に、京都行きの新幹線の片道切符を渡されました(笑)。

金丸:強制的に(笑)。でも、十分親切じゃないですか。

サコ:大阪にいる娘の友だちで、同じように中国に留学してる日本人の子に連絡してくれて、「案内してもらいなさい」って。

ギャップの大きいマリと日本の感覚


サコ:それで京都に行って、祇園祭や金閣寺を案内してもらいました。で、夜になって「どこに泊まるんですか?」と聞かれて。こっちも「え?」ですよ。自分の意思で来たわけじゃないから、てっきり寝泊まりできる場所が用意されているんだろうと。

金丸:やっぱりマリ的感覚で。

サコ:その人は大阪外国語大学の学生で、女子寮に住んでいました。本来、男性は入れないんだけど、しょうがないからということで、「あんまりうろうろしないでください」と言われながら泊めさせてもらったんです。

金丸:親切な人でよかったですね。

サコ:ところが、就活中だというので、翌朝早くに出ていってしまい。残された私たちが共用スペースでコーヒーを飲んでいたら、起きてきた女性たちが、「なんでここに男がおんねん。誰やねん」と。

金丸:そりゃそうだ(笑)。追い出されなかったんですか?

サコ:追い出されたら行くところがないので、「マリ料理を作りますから」って。

金丸:なし崩し的に居座ろうという魂胆ですね。

サコ:買い出しをして、キッチンを借りて。ちょっとキッチンの雰囲気が暗かったので、カセットテープでアフリカの音楽をかけて、踊りながら料理をしていたら、管理人もやって来て。みんなに料理を振舞ったけど、管理人も「こいつら誰や?」って思ったでしょうね。管理人という制度すら知らなかったから、私たちも「この人、誰や?」と分からないまま踊っていました(笑)。

金丸:カオスですね(笑)。

サコ:結局、そのときは日本に2〜3週間いました。何も分からないまま人にお世話になりっぱなしで、楽しい思い出ばっかり。そうして日本を美化した状態で過ごしていたときに、日本人の先生と知り合いました。中国の建築を研究している方で、一緒に研究する機会もあり、彼が提案してくれたことで、日本に留学しようと決めました。

金丸:観光に来たときと留学では、やっぱり感覚が変わりましたか?

サコ:まず、みんなめちゃくちゃ忙しいですよね。中国で知り合った日本人たちも、中国にいるときと日本にいるときでは何か違うんですよ。「遊ぼうよ」と言うと、真っ先にスケジュール帳を見る。中国ではもっと気楽に会えていたのに。

金丸:なぜでしょうね。日本にいると、自然と日本の空気に影響されるんでしょうか。

サコ:それから、電車に乗って会いに行くとき、「何時何分の電車の何両目の何番目のドアに乗って、何番出口から出て」って、めちゃくちゃ指示が細かい。マリ的感覚とのギャップをいろいろなところで感じましたね。

金丸:日本に来て30年くらい過ごされて、今はどういう感覚ですか?

サコ:ここは直した方がいいな、と日本に合わせたところもありますが、直さない方がいいと感じたところもあります。やっぱり日本は日常生活でみんながストレスを受けているし、人間関係でのストレスも多い。そこはマリ的感覚の方が過ごしやすいですね。

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