2023.04.21
SPECIAL TALK Vol.103
旧宗主国の色濃いマリの厳しい競争の中で育つ
金丸:これまでにもアフリカと関係のある方と対談したことはありますが、アフリカ出身の方をお招きしたのは初めてです。まず、サコさんの出身であるマリ共和国について教えてください。
サコ:マリは西アフリカのど真ん中にあります。100年近く植民地としてフランスに統治されたのち、1960年に独立しました。
金丸:1960年は「アフリカの年」とも呼ばれますよね。アフリカで多くの国が独立を果たしました。
サコ:でも、マリの歴史は1960年にいきなり始まったわけではありません。たとえばガーナ王国は、一説には4世紀くらいから栄えていたとされているし、13世紀にはマリ帝国が出現しました。世界的にも有名なカンク・ムーサ(マンサ・ムーサとも)は、マリ帝国の王で、彼は歴史上、最も膨大な個人財産を蓄えた人物としても知られています。それから15世紀後半から16世紀には、ニジェール川流域でソンガイ帝国の勃興がありました。マリはそういういろいろな歴史や文化が重なった国なんです。
金丸:マリの公用語は何語ですか?
サコ:今でもフランス語ですね。ただ、それが問題なんです。今、マリが一番苦しんでいるのは、旧宗主国であるフランスとの関係をどう整理するかということなんですよ。
金丸:それは、もともと独自の歴史や文化があるからということでしょうか。サコさんは「丙午の生まれだ」とおっしゃったけど、言葉と文化や思考様式って切っても切り離せない関係がありますよね。
サコ:そうですよね。私が学んだ国語の教科書はフランス語だし、フランスの文章が書かれていました。面白かったのが、「雪が降ったある日」って文章が出てきて。いやいや、マリやから雪なんか降ったことないねん(笑)。
金丸:誰も見たことないでしょう(笑)。
サコ:でも、雪についてのポエムを、めっちゃ深く感じながら、みんなで読むわけですよ。そういうものかなと思っていたので、「これ、おかしいんちゃうか」と疑問を持つようになったのは、海外に出てからですね。
金丸:ちなみに、マリの主要な宗教はイスラム教ですか?
サコ:はい、国民の90%前後がイスラム系とされています。マリ帝国のときにアラブ世界や地中海との交易が盛んだったことから、イスラム教が入ってきました。ただ、やっぱりアフリカなので、アニミズムの価値観を残していますね。
金丸:そういう意味では、日本にも近いですね。では、サコさんご自身の話に移りましょう。サコさんはマリのどちらのお生まれですか?
サコ:首都のバマコです。
金丸:都会のご出身なんですね。
サコ:都会ですよ。日本で「アフリカ出身です」と言うと、うれしそうに「いいですね。私、動物好きです」なんて言われることがあります。でも都会生まれだから、野生動物をそんなに見たことがなくて(笑)。どう返事をすればいいか悩みます。
金丸:マリの教育制度は、ものすごく競争が激しいと聞いたことがあります。実際はどうなんですか?
サコ:小学校1年生から成績が悪いと留年するシステムです。留年は2回まで許されますが、3回目は強制退学。だから、学歴が小学校1年生で終わることもあります。
金丸:競争どころか、制度自体が厳しいですね。
サコ:これはマリ独自の制度ではなく、植民地時代の影響を残した、いわば輸入物なんです。できる子どもをどんどん教育して、一部の出来のいい人たちが植民地政府の公務員として働く。ひと言でいえば、エリート主義ですね。
金丸:そういう環境だと、公務員が最も地位が高いわけですよね。
サコ:最近になって、スタートアップや新しいビジネスもようやく注目されるようになりましたが、それまでは公務員になることが人生最大の目的のようになっていました。
勉強も仕事も早く終わらせて遊ぶ時間を確保したい
金丸:では親たちもみんな、子どもに「頑張って公務員になれ!」と。
サコ:それが、学校に行かせるのをためらう親もいて。
金丸:どうしてですか?
サコ:学校の価値観と、もともとの価値観が全然違いますから。学校では「主張しなさい」「思っていることを言いなさい」と教わる。でも家では「年寄りを重んじなさい」「話すときは低姿勢で」と言われる。
金丸:サコさんのご両親はどうだったんですか?
サコ:私の父は公務員で、税関で働いていました。だから教育熱心な家でしたよ。
金丸:子どもの頃から勉強は得意でしたか?
サコ:得意とか好きとかいうより、早く勉強を済ませようと考えていましたね。実は私は、小学校4年生くらいから、親戚のところに預けられたんです。実家から300キロくらい離れたところなので、結構遠いですよね。
金丸:それはまた、どうして?
サコ:私は長男なんですが、実家に祖母がいて、祖母にとっては私が初孫。さらにうちの隣には父の姉一家が住んでいて、そちらは子どもがいなかった。だから、姉一家にとっても私は長男みたいな扱いで。
金丸:甘やかされそうな環境ですが。
サコ:まさに。みんなが私の教育に、いろいろ口を出してくるんです。ちょっと成績が悪くなると、「先生がこの子の勉強を邪魔してるんじゃないか」って、シャーマンのところに連れていかれる。
金丸:何かされていないかを確認しに?
サコ:そう。シャーマンも「この帽子をかぶったら、先生はあなたのことをリスペクトする」みたいなことを言う。何の意味もないんですよ(笑)。だけど、周りが勝手に「何か原因があるに違いない」となれば、私は甘えられる(笑)。父はそういうことが許せないから、めちゃくちゃ怒って。
金丸:だって、サコさんが勉強すればいいだけですからね(笑)。
サコ:それで父は、このまま実家にいたら勉強しなくなると考えて、私を親戚に預けたんです。ただ、その親戚はすごく教育熱心で。熱心過ぎて体罰もありました。
金丸:過酷ですね。
サコ:でも勉強さえすればほっといてくれるし、あとは遊んでもいい。だからさっさと済ませるくせがつきました。遊ぶために仕事を早く片付けるのは、今も変わりません(笑)。土曜日には日本人も外国人も、いろいろな人を呼んで家でパーティー。どれだけ忙しくても、その時間だけは作っています。
金丸:交流は大事ですからね。
サコ:中学卒業までの6年間を親戚の家で過ごし、卒業試験を受けた結果、首都の高校に進学することになりました。それで、ようやく実家に戻れました。
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