2023.01.26
ゴールは結婚だけですか? Vol.1「気にしないでください。運が悪かっただけでしょ」
日向は涼しい顔で答えたが、結子はただただ申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「どうやって相手を納得させたの?」
結子が尋ねると、日向は「うーん…」と前置きし、言いづらそうに答えた。
「担当者の方に、今度個人的に食事をご馳走させてくださいって言ったら、なんかうまく乗って来たんですよね」
そう言う日向の顔には、女性社員たちが抱いている印象とかけ離れた、悪い男の片鱗が見えたような気がした。
― 社内だと誠実な男の代名詞みたいに言われてるけど、こっちが本当?
結子が考えていると、日向はニヤリと笑った。
「申し訳ないと思ってるんだったら、ゴハンご馳走してください。ね?例えば今夜とか」
何も今日じゃなくても、と結子は思いつつ、申し訳ない役割を担わせてしまったという気持ちがあった。それに今夜は他に予定もない。
「じゃあ、いいよ。今日…」
言いかけたところで、「じゃあ、店は末永さんにお任せしてもいいですか?決まったらLINEください」と言い残し、日向は去って行った。
― えっと…どこ予約しよう?
◆
結子は19時に乃木坂の『晩鶏』を予約した。
別にどこでもよかったのだが、ちょっと先輩風を吹かせたい気持ちもあった。
結子が到着すると、すでに日向は、店の前で待っていた。
カウンターに2人並んで座る。
「予約までしていただいて、ありがとうございます」
細かな泡で覆われたビールグラスを手に、日向は律儀にお礼を言う。
「全然、迷惑かけちゃったのこっちだから。適当に頼んじゃうね」
とりわさや串を適当にオーダーしていると、日向がじっと結子を見ていた。
「年齢のことを言うのは失礼だとわかっていますが、こういう場を仕切ってくれるって年上の女性らしくて素敵ですね」
「えっ?」
日向がどういう意図で言ってるのかわからず、結子は、とりあえず「ありがと」と笑って返す。
話題を変えようと、結子が日向に尋ねる。
「日向くんってなんでうちの会社入ったの?入社してきた時から、社内の女の子たちがザワザワしてるよ」
「感じの悪い奴がきたっていうザワザワですか?全く興味ありません」
事もなげに言い切るあたり、本当に興味がないのだろう。
「日向くんに彼女がいるか、いないかとか、話題になってるけど?」
「いません」
日向はきっぱりと言い切った。
「え?いないの?意外すぎる。いつから?」
女性社員に人気の彼がフリーだなんて、20代の後輩たちとの話のタネには最高だ。
「そんなの聞いて楽しいですか?長く付き合っていた彼女に、結婚するつもりはないって言ったら、フラれました。1年前ですね」
話しづらいことを聞いてしまったようで、結子は「そうなんだ、ごめん」と謝った。
「高校の同級生で、途中別れていた期間もあったんですが、やっぱりわかり合えるのは彼女なのかな、って思ってたんです。
でも、なんなんでしょうね?女の人って、ある時からいきなり“結婚”の2文字がいつも頭の中をぷかぷか浮き始めるでしょ?」
「うーん、なんでだろうね。でも20代の後半くらいから、自分の容姿の衰えを感じ始めて、そのあたりから焦るかも。綺麗なうちに相手を見つけて結婚したいって」
結子自身も身に覚えがある。今から3年前、一度は結婚を考えた恋人がいた。
なぜそれが実現しなかったか、当時の記憶を掘り起こすことは、結子にとって沼にハマるようなもの。忘れようと常に努力し続けている過去だ。
「末永さんは、結婚はしないんですか?」
「相手がいたらもちろんしたいよ。でも、その予定はない」
その理由や過去の話には一切触れず、言い切った。
「付き合うのはアリですか?例えば…僕と」
「はい?」
前触れもなく降ってきた告白に、結子は素っ頓狂な声を出した。
「なんですか、それ。どっから声出てるの?」
日向がおかしそうに笑っている。
「僕、冗談で言ってませんし。末永さんに気にかけてほしくて、クレームのフォロー頑張りました」
今度は真顔で向き直った。
こんなシチュエーション、久しぶりすぎる。年上の余裕でかわすべきだが、結子の頭の中は真っ白で、気の利いた言葉が出てこない。
「な、なんで私なの???」
― そもそも、次に付き合う人と結婚したい、って思っている私に、結婚願望のない年下と恋愛している暇はないんですけど…。
◆
昨夜、結子は、はっきりと返事はしなかった。とりあえず口から飛び出してきたのは、ありきたりな疑問形だけ。
そして、今日。
― サンクスカード経由で次のアポをオファーしてくるなんて、無視できないじゃん。
結子はじっとスマホの画面を見入り、考え込むのだった。
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