「好きになった人と結婚して家族になる」
それが幸せの形だと思っていた。
でも、好きになった相手に結婚願望がなかったら…。
「今が楽しいから」という理由でとりあえず付き合うか、それとも将来を見据えて断るか…。
恋愛のゴールは、結婚だけですか?
そんな問いを持ちながら恋愛に奮闘する、末永結子・32歳の物語。
Vol.1 後輩男子の思惑
『打ち合わせに同席いただき、ありがとうございました!末永さんが一緒だったので心強かったです』
末永結子(ゆいこ)のiPhoneに後輩女子から“サンクスカード”が届いた。
『こちらこそ、ありがとう。頑張りに期待してます』とスマホの画面にメッセージを入れ送信ボタンを押す。
結子の勤める広告代理店が、サンクスカードアプリを導入したのは、ほんの半年前だ。
「社員同士のコミュニケーションツールとして、感謝の気持ちを言葉にして送り合うことで、信頼関係の構築に役立てよう」という意図があり、送るたびにサンクスポイントが貯まっていくという仕組み。
― ふぅ…。このシステム、意味あるのかなぁ…。
デスクに肘をつき、億劫そうにメッセージを入れていると、背後から誰かが結子の肩をポンと叩いた。
「結子どうしたの?ため息ついて」
振り向くと、同期入社の楓がノートPCを片手に立っている。
「いや、サンクスカードって意味あるのかなって思って。“ありがとう”を贈りあっても、仕事が終わるわけじゃないし」
「いいじゃん。面倒なら返さなければ。あるいは、定型文をコピペして送るとか」
「まぁ、そうなんだけどさ」
「ここ、いい?」
楓が、隣の席に荷物を下ろす。会社がフリーアドレスを取り入れたのも、サンクスカードと同じ半年前だ。
時間は、12時をまわったところで、ランチ時のオフィスは人もまばらだ。
「あれ?楓、そのロエベ、前から持ってたっけ?」
よくぞ気づいてくれました、とばかりに楓はウフフと笑った。
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