2022.10.21
SPECIAL TALK Vol.97
学業と並行で専門学校をかけ持ち、執念で目指したアナウンサー
金丸:中学以降も、ずっと地元の学校ですか?
梶浦:中学は地元で、高校は隣の恵那市の県立恵那高等学校に通いました。中学まではまあまあ成績もよかったんですけど、恵那高は地域で一番の進学校なので、一気に成績が落ちて。部活もずっと陸上をやっていたんですが、高校で靭帯を切ってしまって。
金丸:それは大変だ。陸上では何の種目を?
梶浦:3,000メートルや5,000メートルの長距離です。
金丸:私は陸上の長距離とか水泳とか、黙々と練習を続ける種目が大の苦手で。
梶浦:そうなんですね。私は部活動を通じて、コツコツやっていく持久力が育まれたのかもしれません。でも勉強もスポーツも、壁にぶつかったのは高校時代でした。
金丸:でも、アナウンサーへの夢は捨てずに?
梶浦:はい。アナウンサーになりたいという一心で、立教大学に進学しました。徳光和夫さん、関口 宏さん、古舘伊知郎さん、野際陽子さん、ありとあらゆる大御所たちが立教大学出身だったので。
金丸:でもアナウンサーになりたい人って、すごく多いですよね。大学の放送部やアナウンサー養成学校で相当練習して、経験も積んで面接に挑むと聞いたことがあります。
梶浦:私の場合、「アナウンサーになりたいから大学に進学した」という感じなので、2年生のときからアナウンサーの事務所に入りました。フリーアナウンサーの草分け的存在である押阪 忍さんが開いた事務所です。
金丸:まず事務所に所属するのが難しそうですが。
梶浦:そのときは倍率が70倍でした。
金丸:とんでもなく狭き門ですね!
梶浦:振り返ってみると、本当にがむしゃらで。「絶対にアナウンサーになるんだ」と、同時に3つの専門学校に通っていた時期もあります。
金丸:大学に通いながらですよね!?執念ですね。
梶浦:そして、3年生からはテレビ埼玉で、お昼の生放送を担当させてもらえるようになりました。でも最初の頃は、泣かずに帰った日がないくらいで。
金丸:えっ、いったいどうして?
梶浦:感想をひとこと言うだけで、いろいろな反応が返ってくるんです。それで話すことが怖くなってしまって。
金丸:たとえば「ふざけるな」というような批判的なコメントも?
梶浦:そうですね。当時はまだSNSもない時代でしたから、投書でお叱りの声が届きました。
金丸:褒められて育つタイプの梶浦さんにとっては、酷な状況だったでしょう。
梶浦:投書自体そんなに数がないなかで、ネガティブな意見をいただくと、ひとつひとつがすごく刺さってしまって。そうして自信がなくなってくると、どんどん噛んでしまうし。
金丸:負のスパイラルですね。だけど、それでもめげずにアナウンサーを続けられた。大学を卒業されたあとは、どうされたのですか?
梶浦:卒業後もテレビ埼玉で1年間お仕事を続けて、その後、キー局や地元の名古屋などいろいろな民放局を受けました。最終面接まで進んだこともありましたが、全部ダメでした。
金丸:実績があるのに……。とても厳しい世界なんですね。
梶浦:でも地元に帰りたいという思いが強くて、ちょうどNHKが東海地区のアナウンサーを募集していたので受けたところ、採用してもらえました。
素晴らしい技や製品も発信がなければ気づかれない
金丸:アナウンサーは何年続けられたのですか?
梶浦:19歳から28歳まで、ちょうど10年です。
金丸:その後、根付の職人になるまでには、いったい何があったのですか?
梶浦:NHKに入社して3年目に「東海の技」というものづくりの職人さんを紹介するコーナーを担当したんです。しかも、単にナレーションをつけるというのではなく、取材対象選びから構成まで、すべて私がやるという。
金丸:なかなか大変そうですが、そのぶん面白そうですね。
梶浦:すごく楽しかったですよ。私はどちらかというと、ニュースを読むより取材に行くほうが好きだったので。
金丸:それまで無縁だった職人の世界に触れてみて、いかがでしたか?
梶浦:ショックだったのが、ほとんどの職人が後継者不足に悩んでいたことです。ということは、仕組みとして何かおかしいんじゃないか、とまず思いました。そして、職人さん自身が「私が作っている伝統工芸って、こんなに素晴らしいんだよ」という情報発信を全然していないことがすごくもどかしく思いました。
金丸:職人さんって、そういう発信をするのを野暮だと思っていそうですが。
梶浦:そのとおりです。自ら発信するのではなく、作品を手に取って気づいてほしいというのが、職人の価値観なんですよ。
金丸:日本のものづくりって、職人の世界に限らず、「品質のいいものを作れば売れる」と考えがちですよね。でも実際にはそうじゃない。品質がいいことは前提でしかなくて、マーケティングやブランディングにも力を入れるからこそ、多くの人に受け入れられる。
梶浦:特に伝統工芸は身近にあるわけでもないし、触れる機会も少ないので、なおさら気づいてもらえないんです。だから私も人間国宝級の技を持つ職人さんに「もっと発信してくださいよ」と言いました。だけど、「それは大事なことだと思うけど、誰かにやってもらうしかない」と。
金丸:日本の教育では、発信することの重要性を教えません。自分の技や製品の良さを理解できる人が少ないなら、それを発信しなければいけない。だから本業と同じくらい、発信することも重要な技のひとつだと思います。
梶浦:本当にそうですよね。
金丸:ところで、何人くらいの職人さんを取り上げたのですか?
梶浦:料理人などを含めると、50人くらいでしょうか。
金丸:伊勢根付との出合いも、それがきっかけで?
梶浦:はい。私自身、根付を使ったこともなければ、存在自体知りませんでした。
金丸:ほかにも伝統工芸の職人は大勢いらしたと思いますが、なぜ伊勢根付だったんでしょう?
梶浦:それは、のちの師匠である中川忠峰さんの人柄が素晴らしかったからです。それから落語や昔話を題材にしていたり、ダジャレのようなユーモアが潜んでいたり、技巧だけじゃない根付の面白さにもひかれました。海外では「日本4大芸術」のひとつと評されているのに、当の日本人が根付のことを知らないなんて、こんなのおかしいじゃないか、って思いましたね。
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