SPECIAL TALK Vol.97

~メディアとしてではなく一職人として。伝統工芸の魅力を新しい立場から発信したい~

金丸恭文氏 フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長

大阪府生まれ、鹿児島県育ち。1989年起業、代表取締役就任。


若手職人たちとともに伝統工芸と職人の世界を変えていく


金丸:梶浦さんの作品は、どこで購入できるんですか?

梶浦:フリマサイトでも販売していますが、基本的にはメールなどでご連絡いただいてからの受注生産になります。たとえば金丸さんに注文いただいたら、金丸さんだからこそのモチーフを一緒に考えて、お作りするというかたちです。

金丸:そういう販売形態って、伝統工芸の世界では珍しいんじゃないですか?

梶浦:そうですね。基本的に職人さんって、新しいことには消極的な方が多いんです。たとえば「ネットで販売したい」と言ったら、「実際に手に取って選んでもらわなきゃダメだ」と言う師匠が大半です。

金丸:でも、梶浦さんの師匠は許してくれたんですよね。

梶浦:はい。そこもうちの師匠のいいところで、「やってみたら。俺はいいとは思わないけど」って(笑)。

金丸:積極的に賛成するわけじゃないんですね(笑)。だけど、挑戦させてくれるなんて、素敵な師匠です。「受け継がれてきた技術が素晴らしい」とか「日本の伝統文化を担っている」ということは、たしかに価値があることです。でも稼げなければ、いずれは滅びてしまいます。現状維持では衰退を打破できないのだから、とにかく挑戦し続けないといけない。

梶浦:根付に限らず、伝統工芸の職人は「生きていくのが精一杯」という水準しか稼げていない人が多いんです。でも私と同世代とか、私より下の世代の職人って、廃れつつあることをわかったうえでこの世界に入ってきているから、すごい覚悟があるんです。だから現状を変えるためにも、まずは多くの人に知ってほしいと思っています。

金丸:そういう人たちが集まると、これまでとは違う、新しい何かが生まれそうですね。

梶浦:実はすでに集まって活動しています。2012年に三重県を中心とする若手職人に呼びかけて、『常若』(とこわか)を結成しました。そして2017年には、東海3県の若手女性職人で『凛九』(りんく)というグループも立ち上げました。

金丸:女性だけのグループですか。伝統工芸の世界って、男性ばかりだと思っていたので意外です。

梶浦:凛九は尾張七宝、美濃和紙、有松・鳴海絞、伊勢一刀彫、漆芸、伊賀くみひも、伊勢型紙彫刻、豊橋筆、そして伊勢根付という、いろいろな分野の9人が集まりました。分野を横断してコラボしたり、一緒に展示会をやったりしています。たとえば、プロジェクションマッピングと伝統工芸を組み合わせて、ビジュアルを前面に出した見せ方をするとか、明るく華やかな演出になるように工夫しながら活動していますね。

金丸:それは面白そうですね。お話を伺っていると、伝統工芸の未来にすごく期待が持てます。日本人はどうしても海外ブランドに目が行きがちですが、私は日本の伝統的なものを普段使いしている人って格好良いと思います。だから、もっと関心を持ってほしいですね。

梶浦:そうですね。伝統工芸って、生活に取り入れることで気持ちが豊かになります。ひとりでも多くの方に手に取ってほしいです。NHK時代、取材してわかったのは、素晴らしい技術を持っているのに、評価されないどころか悔しい思いをしてきた職人さんがあまりにも多すぎるということです。なかには、若い母親が息子さんに「ちゃんと勉強しないとああなっちゃうよ」と言いながら指を差されたという方もいました。職人歴50年を超えるような方に、親戚から初めて「こんな素晴らしいことをしていたのね」と言われたと、泣きながら感謝されたこともあります。私の取材で初めて理解してもらえたということですが、やはり正当に評価されるべきじゃないですか。

金丸:そういう使命感があるからこそ、梶浦さんの周りには伝統工芸の在り方を変えようと挑戦する仲間が着実に増えているのでしょうね。それに、今はまだコロナ禍の影響がありますが、海外からの観光客にとって、伝統工芸は非常に魅力的に映るはずです。今後、梶浦さんをはじめとする若手職人のみなさんがさらに活躍され、日本文化の魅力を世界中に発信していくことを応援したいと思います。今日は本当にありがとうございました。

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