SPECIAL TALK Vol.97

~メディアとしてではなく一職人として。伝統工芸の魅力を新しい立場から発信したい~

令和のニューリーダーたちへ


日本の風土や文化のなかで生まれ、今日まで受け継がれてきた伝統工芸。

しかしその多くが後継者不足に悩まされ、「技を受け継いでいるのはひとりだけ」ということも珍しくない。

衰退のさなかにある伝統工芸の世界に、10年前に飛び込んだ梶浦明日香氏。

梶浦氏はNHKのアナウンサーとして伝統工芸に触れ、その魅力にひかれて、自らが職人となることを決意した。

現在は根付(ねつけ)の職人としてだけでなく、他分野の職人とも積極的につながり、伝統工芸の世界を積極的に発信すべく精力的に活動する。

数少ない女性職人である梶浦氏の歩みを振り返りながら、国内でもあまり知られていない伝統工芸の魅力や可能性、そして今後の職人の在り方について探る。

梶浦明日香氏 元NHK名古屋放送局・津放送局キャスター。取材を通じて伝統工芸の素晴らしさやそこに込められた思いに共感するとともに、多くの伝統工芸が後継者不足のため存続の危機となっていることを知り、職人自らが発信することが大切だと強く意識するようになる。根付の粋な遊び心、細かな彫りの美しさに感銘を受け、当時国際根付彫刻会会長だった中川忠峰氏に弟子入りを決意。また次世代の若手職人の活動の幅を広げるべく、伝統工芸を担う若手職人のグループ『凛九』や『常若』を結成。「DISCOVER THE ONE JAPANESE ART 2018 in LONDON」大賞等、多数受賞。


金丸:本日は元アナウンサーで、現在は根付(ねつけ)職人として活動されている梶浦明日香さんをお招きしました。お忙しいところ、ありがとうございます。

梶浦:こちらこそお招きいただき光栄です。

金丸:今回の対談の舞台は元麻布のイタリアン『TOSAGE(トサージュ)』です。シェフは新潟県十日町市の出身。今日いただくリゾットは、ご実家で作られた魚沼産コシヒカリを使っているそうです。旬の季節の食材を用いたコースでは、メインのあとに10種類の中から好きなだけ選べるパスタが用意されているとか。

梶浦:料理もとても楽しみです。

金丸:これまで100回近く対談をしてきましたが、着物で登場されたのは梶浦さんが初めてです。着付けもご自身で?

梶浦:はい。根付は着物に合わせるものですから、自分で着られるようになろうと。

金丸:恥ずかしながら、私は根付に関してあまり知識がなくて。まず根付のことを簡単に教えてもらえますか?

梶浦:根付は巾着や印籠などを着物の帯にひっかけるためのものです。江戸時代には当たり前のように使われていました。徐々に技工が凝らされるようになり、デザインに洒落やユーモアが入って、「江戸のダンディズム」といわれることもあります。

金丸:ということは、もともとは男性が使うものだったんですか?

梶浦:そうです。のちのち芸妓さんなど女性も身につけるようになりますが、最初は商人や武士の間で流行しました。体の正面ではなく、横の位置につけるので、見せびらかすというより、ちらっと見えるのが粋とされていたそうです。この根付が、実は海外では「日本の4大トラディショナルアート」のひとつとして紹介されているんですよ。

金丸:えっ、そうなんですか。

梶浦:ちなみに、ほかの3つは日本刀、浮世絵、そして漆です。日本の芸術は大陸から入ってきて独自の進化を遂げたものが多いのですが、この4つに関しては日本のオリジナリティが高く、海外から評価を受けています。

金丸:失礼ながら、根付はほかと比べると知名度が低いですよね。いったいなぜなんでしょう?着物文化がなくなったから?

梶浦:それもあるかもしれませんが、明治になって、外貨を獲得するために日本政府が工芸品の輸出を推奨しました。そのとき、世の中に出回っていた根付の9割5分が、海外に出てしまったといわれています。

金丸:そんな貴重なものをどんどん放出してしまったんですね。外貨獲得のためとはいえ、何とももったいない話ですね。ところで、梶浦さんの根付は手作りなんでしょうか?

梶浦:はい、完全に手作りです。まずリュックを背負って、山に木を取りに行くところから始まります。私がやっている伊勢根付は、伊勢神宮の裏にある朝熊山のツゲの木を使うのが本流です。岩肌で育つため成長が遅く、「世界一、年輪が詰まっているツゲ」といわれていて、細かい彫刻に向いているんですよ。

金丸:伊勢根付はやっぱり伊勢神宮と関係が?

梶浦:お伊勢参りのお土産という意味合いがあるので、縁起物だったり、人の幸せを願うような側面がありますね。

金丸:そうなんですね。事業家のなかにも商売繁盛を願って、毎年伊勢神宮にお参りする方がいます。そういった方々にも根付を使ってもらえたらいいですね。私は日頃から、日本のものづくりや職人文化はもっと注目されるべきだと思っています。今日は梶浦さんの幼少時代からお話を伺いつつ、伊勢根付だけでなく、日本の工芸品や文化についても意見を聞かせてください。どうぞよろしくお願いします。

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