2022.04.30
東京レストラン・ストーリー Vol.11「…私って、彼にしがみつきすぎ?本当の自分を見失ってるのかな……」
”結婚できないとダメだ”と世間体ばかり気にして、慎太郎に気を使う日々。嫌われないように、フラれないようにとばかり考えて、言いたいことも言えない。
自分らしさなんてどこかへ仕舞い込んで、とにかく表面だけを一生懸命取り繕う。
果たして、私はそれで幸せなのだろうか。慎太郎との結婚は、誰のためにするんだろう。自分のため?それとも周りの目のため…?
「はい。こちら土鍋ご飯になります」
そんなタイミングで大将が出してきてくれたのは、温かな湯気が立ち上る、「鮭といくらの親子ごはん」だった。
「美味しい…」
ご飯のひと粒ひと粒が立っており、同時に濃厚ないくらが口の中でプチっと弾ける。そこに少し甘塩っぱい鮭が加わり、食材すべての旨味が絶妙なコンビネーションで引き出されていく。
決して主張が強い訳ではない。でも、それぞれの食材が引き立て役になると同時に主役にもなっており、ただただ美味しい。
「多かったら、残りはおむすびにもできますので」
「わぁ、嬉しい!」
伝統的な和食だけれど型にはまらず、おおらかでほっこりする味。
“星つきレストラン”の肩書はすごいけれど、だからといって気負いを感じさせない。
人柄と温もりを感じられる料理に、なぜか私は泣きそうになり、慎太郎というカードを使ってヒエラルキーの上へのしあがろうとしていた自分が恥ずかしくなってきた。
「私は茜のちょっと強気で、物怖じしない性格が好きなんだ」
裕子の言葉が、心に沁みていく。
「茜らしくいられる素敵な人を、また探したらいいんじゃないの?それに、結婚がすべてじゃない。もっと自由に楽しみなよ」
外見や肩書に囚われ過ぎて…いや、典型的な“結婚がゴール”になり過ぎて、本質的なことを忘れていた。
料理を食べながら気がついたのは、ステータスよりも大切なことがある、ということ。
こちらのお店の料理は一品ずつ、ただ目の前にある食材に、真摯に向き合っている感じがした。見栄はなく、ただ“好き”だからというのが伝わってくる。
「そうだよね。私、約束に遅刻してくる人が許せないの。本当は毎日“好き”って連絡してきてくれるような人がいいし、親のことを『ママ』って呼ぶ男の人も苦手だし」
「めちゃくちゃ出てくるじゃん(笑)」
「裕子みたいに、自分の好きなことで生きていきたい、転職もしたい。海外に1年間くらい留学もしたい」
「それ、全部叶えられれるよ。自分の人生、好きに生きていいんだから」
私は、この世の中にひとりしかいない。
世間の評価や視線に囚われて動けなくなる前に、もっと自由に、自分らしく生きればいい。
実直に、自分の気持ちに嘘をつかずに生きられるような人といられるのが、実は一番幸せなのかもしれない。
食事を終えて、西麻布の交差点まで裕子と2人で肩を並べて歩く。
「裕子、その髪型似合ってるよ。私もバッサリ、切っちゃおうかな」
「いいんじゃない?髪なんて、伸びてくるし」
西麻布の狭くて昏い夜空を見上げると、今宵は満月だったことに気がついた。
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▶1話目はこちら:港区女子が一晩でハマった男。しかし2人の仲を引き裂こうとする影が…
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