SPECIAL TALK Vol.89

~失敗したからこそ挑戦を恐れなくなった女優の新しいカタチを切り拓きたい~

寺田:いいえ。当時は事務所の大阪支社に所属していて、東京に移ったのは大学からです。高校は、大阪の府立東住吉高等学校に進学しました。

金丸:公立校だと、芸能活動をするにもハードルが高いのでは?

寺田:はい。当時の大阪には、芸能活動に寛容な高校がほとんどなくて。でも、東住吉高校は伝統芸能を学ぶ学科があったり、マナカナこと三倉茉奈・佳奈さんの出身校だったり、教師に理解があるからと、中学の先生に「東住吉に行け」とめっちゃ言われました (笑)。

金丸:ちなみに、もともとは関西弁だったんですか?

寺田:バリバリ関西弁でしたよ。でもドラマに出始めた頃に「直さなきゃいけない」と言われて。いつも東京に向かう新幹線に乗り込んだ瞬間に、「今からは標準語をしゃべる」と気持ちを切り替えて、仕事場に行ってましたね。

金丸:私も普段は標準語ですが、相手が関西弁だと、いまだに関西弁が出てきます。

寺田:出ちゃいますよね。私も親や姉と話していると関西弁に戻ります。

金丸:東京と行き来しながら高校生活と芸能活動を両立させるのは、大変だったはずです。それでも、大学に進学されたんですね。

寺田:そうですね。中3でデビューしていなければ、迷うことなく進学していたはずなので、大学進学は大事だなと。あとは当時、テレビではクイズ番組が流行っていたので、「そこそこの大学に通っていたほうが、お得だろうな」という考えもあって(笑)。

金丸:結構、戦略家なんですね(笑)。

寺田:それに、東京に出るための理由が欲しかったんです。大阪にいることで、ハンデを背負っているように感じていたので。

金丸:でも所属が大阪支社ということなら、一筋縄ではいかないのでは?

寺田:そうですね。「東京の大学を受験したいです」と直談判したし、合格したあとは合格証を持って「東京に出るので、東京所属にさせてください」とお願いしたり。

金丸:いきなりオーディションに応募したときもそうですけど、寺田さんはこうと決めたら突き進む行動力と突破力がありますね。

一瞬で終わった絶頂期。原因は独りよがりの思い込み

金丸:大学はどちらに進学されたのですか?

寺田:明治大学文学部で演劇学を専攻しました。

金丸:芸能活動で忙しいと、大学の授業にもなかなか出られなかったのでは?

寺田:むしろ、大学にはがっつり通いました。大学の3、4年生の頃は、ほぼ仕事がない状態だったので。

金丸:えっ、そうなんですか!?

寺田:デビューしてから1、2年くらい、高校2年生の頃がピークで、その後はどんどん仕事がなくなっていって。大学時代はレッスンと学校の日々でしたね。

金丸:売れる、売れないにもいろいろな要素があると思いますが、仕事が減った原因はどう考えていますか?

寺田:15歳でデビューして、その後トントン拍子に行ったことで、その成功体験に引っ張られたように思います。「私はこういう考え方を持っているからうまくいった。だから、その考え方、やり方を変えたらうまくいかない」と思い込んでしまって。

金丸:なるほど。芸能人に限らず、社会人や経営者でも、そういう思い込みにとらわれる人は少なくありません。

寺田:振り返ってみると、極端すぎて危うくて、自分のことながら恥ずかしいのですが、「私は女優なんだから、女優の仕事しかやっちゃいけないんだ」と思っていました。ほかにいろいろなオファーをいただいていたにもかかわらず、どれも断って。

金丸:仕事にプライドを持つこと自体は、悪いことではないですけど。

寺田:でも当時の私は、プライドに実力が伴っていませんでした。もちろん、事務所に用意してもらったレッスンは受けていましたが、それだけでどうにかなるほど才能があったわけではありません。基礎も身につけてないのに「女優しかやらない」なんて、今思うと、何言ってるんだろうと。

金丸:自分で自分のチャンスの芽を摘んでしまっていたんですね。

寺田:まさにそのとおりです。そして大学3年生が終わる頃、事務所に呼び出されて、「1年間猶予をあげるから、就職活動をしなさい」と言われました。

金丸:戦力外通告ですか。厳しい世界ですね。

寺田:むしろ、かなり温情のある通告だったと思います。専属契約を解消する場合、3ヶ月前に通知すれば十分なのに、私のことを考えてくださって、1年という時間をいただきましたから。

金丸:ではその通告を受けて、一旦は就職活動をされたんですか?

寺田:いや、むしろ頑なになって、就活はまったくやりませんでした。周りの方たちが「寺田さんには、こういうのが向いているんじゃない?」とアドバイスをくれても、そういう言葉に耳を傾けることもなく、逆に行っちゃって。

金丸:逆というのは?

寺田:もっと頑なにならなきゃいけないというか、「私の考え方が伝わっていないみたいだから、もっと伝えなきゃ」という方向に振り切れてしまって。

金丸:自分の考えを理解してくれるまで、主張しないといけないと思ったんですね。でもそのせいで、孤立が深まってしまった。その頃の寺田さんは、周囲のアドバイスを「ドアの外に放置」するような状態だったと言えます。私も「人に言われたとおりにする」ことはありませんが、参考にはします。言われたことを自分のなかに取り込んで、その上でどうするかを考える。

寺田:大学時代の私にそれができていたら、違う道を歩んでいたかもしれません。

金丸:一旦受け入れて自身で消化できれば、新しいものが生まれるチャンスなんだけど、お話を聞いている限り、当時の寺田さんは相当扱いにくい人だったんじゃないかなと(笑)。

寺田:まさに。自分でもそう思います(笑)。

金丸:人が成長する上で、自己肯定力は大事です。自己肯定力が低いと、チャレンジする気力さえ湧きません。ただ、成長のチャンスを逃してしまうのは、自信過剰な人も同様じゃないかと。

寺田:耳が痛いですね。オファーをいただけていたのも、私の実力で掴んだのではなく、素晴らしい事務所があって、私を売り込んでくれる人たちがいたからこそだったのに。すべてお膳立てしてもらっていたことに気づいたのは、事務所を退所したあとでした。

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