2021.06.21
SPECIAL TALK Vol.81自身や環境の変化を怖れず、途上国に光を当て続けたい
金丸:柔道時代の経験が、事業に生かされていると感じることはありますか?
山口:ものづくりは、スポーツに似ていると思います。同じ技を何度も反復練習するのか、ひたすらミシンを動かすのか。職人のスピリットも、「高みを目指してやるぞ」というスポーツ選手に通じます。
金丸:海外で事業をされていると、日本のいいところと悪いところがよく見えるのではないですか?
山口:私の場合、経営者としてはバングラデシュで生まれ育ったようなものです。だからマネジメントは日本のほうが難しく感じます。
金丸:それは具体的にどういった部分でしょう?
山口:日本はバングラデシュのように、生きるか死ぬかの世界ではありません。だから、マインドがすごくソフトです。バングラデシュから帰ってきて、向こうと同じように組織をまとめようとしたら、退職者がいっぱい出てしまって。
金丸:「こんなに恵まれた国で、生死を分けるような悩みや苦労もないのに、なぜもっとやれないのか」と?
山口:まさに。2008年、テレビ番組『情熱大陸』で取り上げてもらったときは、学生も含めてたくさんの方が「自分もやりたい」と入社してきました。でも私の要求は高いし、当たりもきつい。ほかにもぶち当たる壁はいっぱいあるので、みんなサーッといなくなってしまって。
金丸:そのときは、まだカメレオンとしての能力が十分ではなかったんですね。
山口:その頃は「バングラデシュの人たちはゼロどころか、マイナスからここまでやっているのに、なんで恵まれた日本にいてできないの?」と思っていましたね。マザーハウスという名前が似つかわしくないくらい、ハードな会社で。
金丸:では、日本にいるときも素に戻るのではなく、日本人の国民性に自分を合わせている感覚なのでしょうか?
山口:そうですね。まだ100%は合わせられない、という感じはしています。バングラデシュにいるときのほうが、しっくりきますから。
金丸:バングラデシュに最初に行かれたのは、いつですか?
山口:2004年ですね。
金丸:では、もう17年になるのですね。
山口:17年の間にバングラデシュ自体も大きく変わりました。高層ビルが建って、スタバもできて。
金丸:中国の人件費が高くなったことで、最近では大企業がどんどんバングラデシュに工場を移していますし。
山口:同じ立ち位置のカンボジアとベトナムと競っていますが、「バングラデシュこそがネクストチャイナだ」という気概があります。
金丸:マザーハウスに限らず、自分たちの商品が評価されていることを知ったバングラデシュの人たちは、「だったら、もっとできるはずだ」と奮い立ちそうです。
山口:「こういう素材は使えないか」と声をかけてくれる工場もあるし、国内のいろいろな工場を訪問して「みなさんにもできるはず」と話すこともあります。一方で「日本人向けならイケる」と現地の人たちが起業するケースも増えてきました。これからはいかにコピー品を防ぐかに神経を使わないといけないし、より付加価値の高いプロダクトを生み出し続けなければいけません。
金丸:さらにプロダクトを増やす予定はありますか?
山口:今は考えていないですね。実は昨年末に長女を出産しました。長女を抱えながらオンライン会議に参加したりしていますが、子育てと仕事の両立は想像以上に大変ですね。
金丸:うちの会社には、赤ちゃんを背負ったまま出社するツワモノがいましたよ(笑)。しかし、バングラデシュに行くときは、お子さんは連れていけないですよね。
山口:夫に預けるしかないでしょうね。コロナでバングラデシュにしばらく行ってないので、この先どうなるかわかりませんが。
金丸:旦那さんはどんなタイプの方ですか?
山口:まっすぐな人です。
金丸:まあ、今日のお話を伺っていると、まっすぐな人じゃないと山口さんは許せなさそうです(笑)。
山口:そうかもしれません(笑)。
金丸:ところで、娘さんには柔道を経験させますか?
山口:正直、やらせたくないです。現役時代は怪我ばかりだったので。鼻、肋骨、足首を折っていますし。
金丸:そんなに骨折を。娘さんが「やりたい」と言い出したら、気が気じゃないですね。
山口:今は子どもに何かをやらせたり教えたりするよりも、子どもから教えられることや、影響を受けることのほうが多いですね。大変ですが、いろいろな刺激を受けながら子育てをしています。
金丸:山口さんは変わることを恐れないし、ゼロから始める覚悟がある。でも日本人の大半はゼロから始めることを極端に避け、すでに成功した人や大企業にしか目がいきません。人の評価もその人の可能性ではなく、これまでの実績が重視される。これではイノベーションが起こりにくくて当然です。山口さんのように、やる気とコミットメントを原動力に自分で道を切り拓いていく人が増えたら、きっと日本は変われるはずです。今日は多くの人に勇気を与えてくれるお話を伺いました。本当にありがとうございました。
【SPECIAL TALK】の記事一覧
2024.04.19
Vol.115
~この楽器だからこそできる表現を。歴史ある箏を武器に世界を目指す~
2024.03.21
Vol.114
~勝負の気持ちから感謝の気持ちに。青森の伝統を守り、盛り上げたい~
2024.02.21
Vol.113
~学問という知的な武器を子どもたちに。学びの体験をアップデートして日本を変える~
2024.01.19
Vol.112
~庭師として素晴らしい日本文化を守り、次の世代へと伝えていきたい~
2023.12.21
Vol.111
~いつだって新しい人に出会いたい。シンプルな好奇心が新たな交流を生んだ~
2023.11.21
Vol.110
~自分が飲みたい日本酒で世界に挑戦し、日本酒業界に革命を起こしたい~
2023.10.20
Vol.109
~世界で一番愛される字を書きたい。世界を舞台に活躍する書道家へ~
2023.09.21
Vol.108
~ピアノや音楽をもっと自由に、多くの人が慣習にとらわれず楽しんでほしい~
2023.08.21
Vol.107
~未曽有の事態に直面して生まれた医療の新しいカタチ~
2023.07.21
Vol.106
~日本における医療の弱みはウェルビーイングの浸透で改善できる~
おすすめ記事
2021.05.21
SPECIAL TALK Vol.80
~ひとりでとことん建築に没頭した6年が、建築家としての存在意義を見出した~
- PR
2024.04.25
GWは愛車で小旅行!彼女をドライブに誘った男が、密かにアップデートした“あるモノ”とは?
2023.09.27
ハラスメント探偵~通報編~
接待で相手を喜ばせようとした言動をセクハラだと訴えられた。その内容とは!?
2024.05.02
日本酒好きな彼女とのデートにおすすめ!ゆったり落ち着けるカウンター和食3選
2017.04.19
キメの接待はここ!商談を成功へと導く美食自慢の都内名店5選
2021.01.13
「サクッと一杯ならココ!」覚えておくと便利な目黒・権之助坂の店6選
2017.07.18
あるようでなかった!六本木・恵比寿できちんと接待に使える名店4選
2017.07.24
できない大人はいつでも同じ店。男がTPOに合わせて選ぶべき、ここぞのレストラン9選
2024.04.11
プロ★幹事
早稲田卒・エリート商社マンがおすすめする良店4選。サプライズのある“隠れ家レストラン”も登場!
2023.08.02
ハラスメント探偵~解決編~
「あんた、バカじゃないの!」思わず新入社員の腕を掴み、怒鳴ってしまった!これってパワハラ?
東京カレンダーショッピング
『秋田かまくらミート』:秋田を代表するブランド牛「秋田由利牛」!サシの美しい上質なしゃぶしゃぶ用サーロイン
『肉のABCフーズ』:黒トリュフ塩付!牛タン&A5ランク黒毛和牛を使った極上ハンバーグ
『パンツェロッティ』:具材ごろごろボリューミー!フレッシュな野菜と肉感満載のフライドピッツァ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
『レザンファンギャテ』:しっとりと濃厚で、コクのあるニューヨークスタイルのチーズケーキ
『ル・ボヌール 芦屋』:しっとりサクサク!フリーズドライ苺にホワイトチョコをたっぷりと浸透させた新感覚スイーツ
ロングヒット記事
2024.04.23
今日、私たちはあの街で
3回目のデートで、終電を逃した28歳女。翌朝、男が激しく後悔したワケ
2024.04.23
Editor's Choice~fashion~
最大10連休のGWのお出かけに!カラフルなミニボストンバッグが、万能な理由とは?
2024.04.25
Editor's Choice~beauty & wellness~
すれ違ったときに香るぐらいが好印象!大人のニオイ対策には、上質なランドリーアイテムを取り入れて
2024.04.26
大人の週末ToDoリスト
GWは東京でヨーロッパ旅行気分! 『イタリア展 2024』や『フランス展 2024』などイベント3選
2024.04.28
Editor's Choice~gourmet~
最高に気持ちいい空間で、ラグジュアリーな外飲み体験!今から楽しめるビアガーデン6選