SPECIAL TALK Vol.81

~ゼロからつくる喜びを感じながら、知られざる途上国の底力を伝えたい~

金丸恭文氏 フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長

大阪府生まれ、鹿児島県育ち。神戸大学工学部卒業。1989年起業、代表取締役就任。

自身や環境の変化を怖れず、途上国に光を当て続けたい

金丸:柔道時代の経験が、事業に生かされていると感じることはありますか?

山口:ものづくりは、スポーツに似ていると思います。同じ技を何度も反復練習するのか、ひたすらミシンを動かすのか。職人のスピリットも、「高みを目指してやるぞ」というスポーツ選手に通じます。

金丸:海外で事業をされていると、日本のいいところと悪いところがよく見えるのではないですか?

山口:私の場合、経営者としてはバングラデシュで生まれ育ったようなものです。だからマネジメントは日本のほうが難しく感じます。

金丸:それは具体的にどういった部分でしょう?

山口:日本はバングラデシュのように、生きるか死ぬかの世界ではありません。だから、マインドがすごくソフトです。バングラデシュから帰ってきて、向こうと同じように組織をまとめようとしたら、退職者がいっぱい出てしまって。

金丸:「こんなに恵まれた国で、生死を分けるような悩みや苦労もないのに、なぜもっとやれないのか」と?

山口:まさに。2008年、テレビ番組『情熱大陸』で取り上げてもらったときは、学生も含めてたくさんの方が「自分もやりたい」と入社してきました。でも私の要求は高いし、当たりもきつい。ほかにもぶち当たる壁はいっぱいあるので、みんなサーッといなくなってしまって。

金丸:そのときは、まだカメレオンとしての能力が十分ではなかったんですね。

山口:その頃は「バングラデシュの人たちはゼロどころか、マイナスからここまでやっているのに、なんで恵まれた日本にいてできないの?」と思っていましたね。マザーハウスという名前が似つかわしくないくらい、ハードな会社で。

金丸:では、日本にいるときも素に戻るのではなく、日本人の国民性に自分を合わせている感覚なのでしょうか?

山口:そうですね。まだ100%は合わせられない、という感じはしています。バングラデシュにいるときのほうが、しっくりきますから。

金丸:バングラデシュに最初に行かれたのは、いつですか?

山口:2004年ですね。

金丸:では、もう17年になるのですね。

山口:17年の間にバングラデシュ自体も大きく変わりました。高層ビルが建って、スタバもできて。

金丸:中国の人件費が高くなったことで、最近では大企業がどんどんバングラデシュに工場を移していますし。

山口:同じ立ち位置のカンボジアとベトナムと競っていますが、「バングラデシュこそがネクストチャイナだ」という気概があります。

金丸:マザーハウスに限らず、自分たちの商品が評価されていることを知ったバングラデシュの人たちは、「だったら、もっとできるはずだ」と奮い立ちそうです。

山口:「こういう素材は使えないか」と声をかけてくれる工場もあるし、国内のいろいろな工場を訪問して「みなさんにもできるはず」と話すこともあります。一方で「日本人向けならイケる」と現地の人たちが起業するケースも増えてきました。これからはいかにコピー品を防ぐかに神経を使わないといけないし、より付加価値の高いプロダクトを生み出し続けなければいけません。

金丸:さらにプロダクトを増やす予定はありますか?

山口:今は考えていないですね。実は昨年末に長女を出産しました。長女を抱えながらオンライン会議に参加したりしていますが、子育てと仕事の両立は想像以上に大変ですね。

金丸:うちの会社には、赤ちゃんを背負ったまま出社するツワモノがいましたよ(笑)。しかし、バングラデシュに行くときは、お子さんは連れていけないですよね。

山口:夫に預けるしかないでしょうね。コロナでバングラデシュにしばらく行ってないので、この先どうなるかわかりませんが。

金丸:旦那さんはどんなタイプの方ですか?

山口:まっすぐな人です。

金丸:まあ、今日のお話を伺っていると、まっすぐな人じゃないと山口さんは許せなさそうです(笑)。

山口:そうかもしれません(笑)。

金丸:ところで、娘さんには柔道を経験させますか?

山口:正直、やらせたくないです。現役時代は怪我ばかりだったので。鼻、肋骨、足首を折っていますし。

金丸:そんなに骨折を。娘さんが「やりたい」と言い出したら、気が気じゃないですね。

山口:今は子どもに何かをやらせたり教えたりするよりも、子どもから教えられることや、影響を受けることのほうが多いですね。大変ですが、いろいろな刺激を受けながら子育てをしています。

金丸:山口さんは変わることを恐れないし、ゼロから始める覚悟がある。でも日本人の大半はゼロから始めることを極端に避け、すでに成功した人や大企業にしか目がいきません。人の評価もその人の可能性ではなく、これまでの実績が重視される。これではイノベーションが起こりにくくて当然です。山口さんのように、やる気とコミットメントを原動力に自分で道を切り拓いていく人が増えたら、きっと日本は変われるはずです。今日は多くの人に勇気を与えてくれるお話を伺いました。本当にありがとうございました。

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