SPECIAL TALK Vol.81

~ゼロからつくる喜びを感じながら、知られざる途上国の底力を伝えたい~

山口:たくさんありました。特に埼玉栄高等学校は強くて、7階級を制覇していました。でも、強いところに入ってもつまらないなと思って。

金丸:反骨精神ですか?

山口:多分、いじめられたことで、そういう考えが強くなったんだと思います。自分で道を作るほうが楽しいだろうと。

金丸:女子柔道部がないということは、男子の柔道部のなかで練習されたんですよね。

山口:最初は断られましたが、監督に何度も頼み込んで何とか入部させてもらって。大会には個人参加というかたちでエントリーしていました。

金丸:ものすごいバイタリティですね。高校では全国何位までいったんですか?

山口:いわゆるインターハイでは負けちゃいましたが、全日本選手権で、7位になりました。そして、その大会を最後に引退しました。

金丸:もったいない。十分立派な成績だから続けることもできたのでは?

山口:間近で強い選手を見て、やはり才能もスタートラインも違う人にはかなわない、と感じたんです。

金丸:では、未練なく?

山口:まったく。柔道人生はこれで終わりでいいな、と思えるほど満足できるいい試合でした。

金丸:それまで柔道一筋でやってきて、燃え尽き症候群のようになってしまいそうですが。

山口:むしろ、これまで柔道ばかりだったので、次は勉強しようという気持ちになりましたね。それで、大学進学という新しい目標ができたんです。

金丸:学校の成績はどうだったのですか?

山口:そうですね。柔道を引退するまでは、休み時間は筋トレして、授業中は昼寝して、という生活でしたから(笑)。

金丸:私も学校の勉強は大嫌いだったので、シンパシーを感じます(笑)。

山口:だから浪人も覚悟したんですが、AO入試で慶應義塾大学に合格できました。本当にラッキーでした。

金丸:AO入試ということは、面接が重要になりますよね。やはり柔道の話題がメインだったのですか?

山口:いえ。むしろ、柔道の話は絶対したくなかったので、自分の原点というか、小学校のときにいじめに遭って、だから教育を変えたいという話をしました。

金丸:なるほど。大学生活はいかがでしたか?

山口:周りの人たちの優秀さに驚きましたね。それに、竹中平蔵先生に出会えたことは幸運でした。竹中先生がゼミで「途上国が経済発展できるかどうかは、教育にかかっている」とおっしゃって。教育に課題を抱えているのは日本だけじゃないんだと、そのとき初めて知りました。

金丸:途上国では学校がないこともあれば、学校があっても通えない子どもが大勢います。現地では子どもは重要な労働力。社会の仕組みを変えて意識を変えていかないと、この状況は変わらないと思います。

山口:そうなんです。授業を通じて、学校に通えない子どもが世界中に何億人もいることを知り、自分の力で何とか変えられないか、と考えるようになりました。それに周りはみんな優秀な人ばかりだったので、「日本のことはこの人たちに任せておけば大丈夫」とも思いました。

ネット検索で出合った最貧国。2週間の旅が運命を変える

金丸:では、もともと大学卒業後は教育に携わるつもりだったんですね。

山口:そうです。途上国に直接働きかけられる国際機関で働きたいと思っていました。なので、大学4年生のときに、ワシントンの米州開発銀行でインターンを経験しました。

金丸:英語は話せたんですか?

山口:日常会話くらいはなんとか。

金丸:とにかく経験してみようと、アメリカに飛び込んだわけですね。

山口:とはいえ、実際にやったことはデータ入力で。でも、ものすごい額の援助金をパソコンで入力しているうちに、これだけのお金が本当に現地の人たちに届いて、有効に使われているのだろうかと疑問に感じはじめて。自分の目で確かめたい、現場のことを知りたい、と思うようになりました。それでインターネットで「アジア 最貧国」と調べてみたら。

金丸:出てきたのが、バングラデシュだった?

山口:そうです。アメリカで4ヶ月間インターンをしたあと、夏休みを利用してバングラデシュの首都ダッカへ飛びました。そのときは2週間の滞在でした。

金丸:行ってみて、どうでしたか?

山口:想像していた以上にひどくて、これまで私が生きてきた世界とのあまりの違いに衝撃を受けました。最初は「もう帰りたい」と思ったけど、「2週間は短すぎた。ここに住んでみなければ、本当のことはわからない」と思い直して。

金丸:そこでさらに踏み込もうとするのが、山口さんのすごいところですよね。

山口:違和感を覚えたこと、気になったことは突き詰めないと気がすまないんです。

金丸:それで、実際にバングラデシュに引っ越してしまった。

山口:はい。大学なら教育ビザがもらえるので、バングラデシュの大学院に進学しました。

金丸:柔道、アメリカへのインターン、バングラデシュへの留学。子どもの頃、内気だったとは思えません。ものすごく勇気があるじゃないですか。

山口:勇気はあると思います。振り返ると、すごく無謀ですけどね。

金丸:しかし、そこからどうやって、バッグづくりに繋がるのでしょう?

山口:現地ですごく嫌だったのが、何をするにしても賄賂を要求されることでした。家を探すのも、水や電気を引くのも、郵便を受け取るのもすべて賄賂が必要で。「支援しなければ」という思いがだんだん「ふざけるな」という気持ちに変わっていって。

金丸:ずっと賄賂を要求され続けたら、そりゃあ嫌にもなりますよ(笑)。

山口:私はフェアじゃないことが嫌いです。賄賂もそうですが、先進国と途上国の取引を見たときも、フェアじゃないと感じることがありました。外から援助を続けたところで、この状況は10年たっても変わらないんじゃないか。だったら、学校を作るよりも職場を作るというか、仕事を作ったほうがいいんじゃないかと思うようになりました。

金丸:ビジネスこそが、この現状を改善できると考えたわけですね。私もかつて、地雷撤去のボランティアをしようとタイに行ったことがあります。そのとき現地の人に言われたのが「タイの国軍が民間を雇ってやらせるべき仕事を、ボランティアが奪わないでくれ」と。それを聞いて、だったらボランティア活動ではなく、私の本業であるITの力で支援しようと思いました。

山口:本当にそのとおりだと思います。とはいえ、私には何かアイデアがあったわけではなかったので、具体的に何をすればいいのか悩んでいたとき、たまたま出合ったのが、ジュートでした。貧しい国にもこんなに素晴らしい素材があって、それをかたちにできるいい職人がいるんだと知って。この素材を使って、付加価値の高い商品を生み出そうと決意しました。

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