ドクターKの憂鬱 Vol.2

「もう恋はしないと、誓ったのに…」34歳医師が惹かれていく、年上女性の魅力とは



クルージングから2週間ほど経った日の夕方。

「あら影山先生、もうお帰りですか?」

医局を出ようとしていたところ、同じ科の看護師に声をかけられた。普段なら報告書などの書類仕事を遅くまでこなし、退勤するのは20時を余裕でまわる。

「ええ、今日はちょっと用事があって」

看護師を軽くあしらい、白衣をクリーニングに出して、勤め先である南新宿の病院を出ると、僕はタクシーに乗り大急ぎで富ヶ谷の自宅に戻った。

シャワーを浴び、カジュアルなシャツとジャケットを手に取る。今夜は来月結婚する先輩のために、明石が企画した食事会なのだ。

先輩医師2人と明石、そして僕を入れた男性4人に対し、愛子さんが女の子を連れやってくるという。

時間より20分ほど遅れ、指定された店に着いた。

場所は西麻布。雑居ビルの4階に看板も出さずひっそりと暖簾を構える老舗の鮨屋だ。

店に入ると、奥のテーブルを明石たちが陣取っていた。

「お疲れさま、カゲヤマ。ほら、座って!」

僕が愛子さんを見つけるよりも早く、彼女が僕に気づき、席まで案内してくれる。

愛子さんがこの日連れてきたのは、この前のクルージングに来ていた2人と、あともう1人。どの子も上品なワンピースに身を包み、女優と言っても疑わないほど綺麗な子ばかりだ。

愛子さんは、茶色味がかった髪を無造作にまとめあげ、サマーツイードのジャケットを羽織っている。パヴェダイヤがぎっしりと詰まったカルティエの宝飾時計をつけてはいるが、シンプルで洗練された装いは、僕が思っていた銀座のママのイメージとはかけ離れている。

明石の話では、愛子さんの年齢は僕らよりもだいぶ上らしい。

「カゲヤマ、着いたのが一番最後だったから、私の隣しか空いてないわよ」

愛子さんはそう言って、僕のグラスに慣れた手つきでビールを注いだ。

「愛子さんの隣で光栄です」

僕は正直な気持ちを、思わず口にしていた。

「愛子さん、こいつ女に騙されやすいタイプなんで、いろいろ教えてやってよ」

明石が横から茶々を入れる。

気恥ずかしくて話をそらそうと、僕は主役の先輩に話を振った。

「そういえば、先輩の結婚相手ってどんな方なんですか?」

聞くところによると、彼の地元である金沢ではよく知られた、有力者の娘と結婚するらしい。

「実家の病院を継ぐために帰ることになるし、こうして自由に遊べるのもあとちょっとだな」

そう話す先輩の姿は、まるで未来の僕を見ているようだった。


丁寧な仕事が施された鮨がひとつ、またひとつと提供されるごとに、お酒が進んで話も盛り上がり、いい感じで酔いが回ってきた。

ふと僕は、愛子さんがいないことに気づき、店内を見渡す。

店の大将が、彼女を探している僕に気がついて「先ほど、外の空気を吸ってくる、と出られましたよ」と教......


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