恋のカルボナーラ Vol.1

恋のカルボナーラ:元カレから“辛辣な理由”で振られてしまい…。心を病んだ女が、行きついた先とは?

萌と雅紀の出会いは、食事会だった。

そこで趣味を聞かれた際、萌はとっさに「料理」と答えてしまったのだ。その後、彼と付き合い始めてすぐ「手料理が食べたい」とリクエストされるようになった。

しかし実際は得意料理などなく、母親の手伝いさえしたことがないという状況。なので、こっそりデパ地下でお惣菜を調達し、それを容器に詰め替えて持っていくようになったのだ。

最初こそバレなかったが、あるとき「俺の家のキッチンを使っていいから、出来立てのカルボナーラが食べたい」と雅紀に言われてしまった。

…そうして料理の腕前が露呈してしまったのである。

萌が作ったカルボナーラは、火が通りすぎて卵がボソボソ。濃厚でクリーミーなパスタにはほど遠い出来だった。

「萌、今まで作ってきてくれた料理は何だったの?」

「ごめん、実はあんまり料理したことなくて…。でも私、これからがんばるから。ね?」

それからは母親に教えてもらいながら、一生懸命料理を覚えようとしたし、レシピ本も3冊くらい買ってそれを見ながら作ったりもした。

しかし努力したからといって、すぐには上達できない。いつからか、雅紀の顔色をうかがいながら料理をすることが多くなっていた。

未だに頭の中でこだましている、彼の最後の言葉。

「料理の腕は全然上がらないし、そもそも『趣味が料理』って嘘つく女が無理」

その別れ際の一言がきっかけで、萌は料理教室に行く決心をしたのだ。


そんな萌が通い始めた料理教室は、表参道のフラワーショップ近くにある。

生徒は20代から40代の女性がほとんど。初心者コースはグループレッスンで、数人の生徒がいると聞いていた。

そして迎えた、初めてのレッスン日。

仕事が長引いてしまいギリギリに到着すると、すでに5人ほどの生徒が集まって談笑していた。

その中に一人、40代とおぼしき男性がいるのが見える。180cmはありそうなスラッとしたスタイルに、おしゃれな口ひげと刈り上げたヘアが似合っていた。

腕まくりをした白いリネンシャツの袖からは、引き締まった前腕が見えている。

― 独特な雰囲気を纏った人だなあ。

それが朝日和馬の第一印象だった。

「初めまして、よろしくお願いします!」

萌はレッスン台にいた生徒たちに、恐る恐る話しかけてみる。すると振り返り、気さくに挨拶を返してくれたが、すでに顔見知りの生徒同士でまた雑談し始めてしまった。

― 輪に入りづらいなあ。

萌がそんなことを考えていたとき。朝日が気を使って、声をかけてきてくれたのだ。

「こんばんは!今日が初めてなんですか?」

「はい、そうなんです。なので少し緊張していて…」

「大丈夫ですよ。このクラスはみんな良い人たちばかりだから。僕も半年通ってるけど、楽しく学べてますよ」

朝日の爽やかな笑顔に、緊張がほどけていくのを感じた萌は、唐突に気になっていたことを尋ねてみた。

この記事へのコメント

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No Name
カルボナーラは美味しいし、好きな男子も多いけど、料理全然やった事ないとだいぶ難しいと思う....
2021/05/18 05:1192返信16件
No Name
結構料理が得意と自分で言ってたり、主婦歴長い人でも、カルボナーラは上手く作れないって言う人多いですよね…
2021/05/18 05:1672返信23件
No Name
趣味はお料理言われたら、それは必然的に何か作ってってなりますよね。
全くできないのに嘘つくから…
2021/05/18 05:1566返信8件
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