2021.03.19
SPECIAL TALK Vol.78令和のニューリーダーたちへ
トラクターやコンバインといった機械は、農業の効率化を一気に推し進めた。一方で、機械化がほとんど進んでいない分野もある。
例えば、トマトやキュウリといった野菜は「選択収穫野菜」と呼ばれ、生育状況を確認しながら、適切な時期に手作業で毎日収穫しなければならない。
しかも、しゃがんでの作業が多く、農業従事者にとって重労働となっている。
この作業を人工知能(AI)を使って自動化することに成功したのが、農業ロボットベンチャーのinaho株式会社だ。
農業とまったく接点がなかった創業者の菱木 豊氏が、なぜ自動収穫ロボットの開発に取り組むことになったのか。
高齢化と後継者不足が深刻な日本の農業。イノベーターは、生きる上で欠かせない食を通じて、世界を変えようと挑み続けている。
金丸:本日はinaho株式会社の菱木 豊さんをお招きしました。お忙しいところ、ありがとうございます。
菱木:お招きいただき光栄です。こちらこそ、よろしくお願いします。
金丸:今日は昨年12月にオープンした、中目黒の割烹『炎水』でお話を伺います。店名の炎は炭火を、水は出汁を表しているそうです。削りたての鰹出汁をベースにした素材本来の味を生かしたお料理に、さまざまな香りを重ねていく繊細な技がウリだそうです。
菱木:今日は、料理も非常に楽しみにしています。
金丸:さて、菱木さんは、野菜の自動収獲ロボットを開発していらっしゃいます。最初に実現させたのは、アスパラガスの自動収穫だと伺いました。いろいろな農作物があるなかで、アスパラガスを選んだのはなぜですか?
菱木:たまたまアスパラガス農家の方と出会い、収穫を手伝ったのがきっかけです。農作物は「一括収穫」と「選択収穫」の2種類に分かれます。例えば米やタマネギ、ジャガイモなどは、収穫のシーズンになると一度に全部収穫しますが、アスパラガスは成長の度合いを見ながら1本1本収穫します。しかも、しゃがんで、出荷に適した長さがあるかどうかを棒で測りながらの完全手作業なんです。
金丸:重労働ですね。時間も相当かかりそうです。
菱木:アスパラガスの場合、栽培の全工程のうち6割を収穫作業が占めています。
金丸:6割ですか。では、そこを自動化したのは、相当なインパクトですね。
菱木:そうなんです。AIを用いて、収穫に適したタイミングを画像で判断し摘み取るという一連の作業を、ロボットが代わりにしてくれます。アスパラガスの次はトマトをターゲットにしていますが、個体ごとに成長速度にばらつきがある野菜は、ほかにもたくさんあります。例えばキュウリ、ナス、ピーマンなどです。
金丸:私はこれまで内閣府規制改革推進会議のメンバーとして、農業改革や漁業改革に取り組んできました。ITが人びとの生活を豊かにしている一方で、日本の農業分野にはまだまだプレイヤーが少ないと感じています。ですから菱木さんのような改革者が出てきてくれることが、非常に頼もしいです。
菱木:ありがとうございます。僕たちinahoは自動収穫ロボットを造っているものの、ロボット自体を販売しているわけではないんです。一般的な農機具は1台で数百万円するのが当たり前の世界です。それでは導入をためらう農家さんも多いので、ロボット自体は無料でレンタルしています。
金丸:では、どこでお金を回収するのですか?
菱木:ロボットは収穫した野菜の重さをひとつずつ計測しているので、その重量に応じて、利用料をいただくというかたちです。inahoのビジネスモデルは、RaaS(Robot as a Service)。つまり、ロボットを販売して終わりではなく、ロボットを使ったサービスを提供する点に特徴があります。農家さんは導入費用が抑えられ、必要な時だけ利用すればいいし、メンテナンスは全てこちらが行っています。
金丸:なるほど。農業は、従事者の高齢化や後継者不足が深刻です。「これ以上、設備投資はできない」と考える人も多い。でも、inahoの提案だと、大規模な農家以外でも試してみようと思えますね。
菱木:20年ほど前、ADSLのモデムを駅前で無料配布するという「Yahoo! BB」のキャンペーンがありましたよね。
金丸:あれを機に、インターネットの契約をした人も相当いるはずです。
菱木:僕はそのロボット版をやりたいんです。使ってみるまではどれだけ便利か分からないけど、いざ使うと手放せなくなる。そんな体験をしてもらい、あらゆる農家にうちのロボットを使っていただくことが目標です。
金丸:菱木さんはもともと農業と接点がなかったと伺っています。それが、どのような人生を歩み、この画期的なサービスを生み出すことになったのか興味津々です。日本の農業の未来が明るくなるようなお話をたくさんお聞きしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
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