2021.03.24
夫婦、2人。 Vol.1美菜の歳は、28歳。結婚してまだ1年の新婚だ。そして、子どもはいない。
ピラティスの勉強をし、スタジオを運営する中で様々な事情を持つ女性と出会って来た美菜には、美菜なりの思いがあった。
「私も、『お子さんもご一緒にどうぞ』って言いたいんですけど…ピラティススタジオって、その…色々お体の事情がある方も通っているので…」
美菜が言葉を選びながら言うと、藍子は一瞬ハッとした表情を見せた。そして、「私もその事情のある方の1人だわ」と言って少し寂しそうに微笑む。
それを見ていた真琴も、同じような曖昧な微笑みを浮かべて言った。
「たしかに…デリケートな問題ですよね。うちも、『子どもはまだ?』ってよく言われちゃいます」
美菜、真琴、藍子の3人は、少しの沈黙の間、控えめな視線を送り合う。
「みんながそれぞれの立場を思い合える世の中になれば良いわね」
藍子がそう言って話題の切り替えの合図を送ると、美菜と真琴も頷き、別の話題を探した。
「さ!そろそろレッスンの時間ですね」
美菜がパッと明るい笑顔を見せると、続々と生徒たちが美菜の周囲に集まってくる。
元バレエダンサーの美菜の、しなやかな体とポージングはとても美しい。ピラティスのインストラクターは元アスリートやダンサー出身者も少なくなく、美菜もその1人なのだ。
物心つく前からバレエの英才教育を受け、数々のコンクールで賞を取り、表舞台でも活躍してきた美菜は、人生の全てをバレエに捧げてきた。それが、バレエに夢中だったためなのか、それとも呪いじみた執念だったためなのかは、いまだに分からなかった。
ただ、生徒たちの前でピラティスの指導をしながらふと自分の足に目をやると、今でも胸がぎゅっと締め付けられる。
長年トウシューズで踊り続けていたため、足の形は変形し、爪はもはや原型をとどめていない。皮膚も変色しボロボロのままだ。
傷を負ったのは足だけではない。精神的にもかなりの不調をきたし、心も体も限界まで追い詰められたせいか、現役時代の最後の方は記憶がなかった。
― でも、そのおかげでピラティスに出会って、今の私がある。
過酷なダイエットでホルモンバランスは崩れ、身体中の骨も筋肉もとうに限界を超えて悲鳴をあげていた。そんな中、治療の一環として藁にもすがる思いで出会ったピラティスが、美菜の人生を変えたのだ。
― 幸せそうに見えても、みんな何かを抱えているんだ。ピラティスを通して、少しでも重い荷物を下ろす手伝いがしたい。
それが、美菜が24歳のときの決意だった。
プリマとして活躍していた美菜の早すぎる引退は、周囲からかなり惜しまれた。特に、美菜にバレエを与え、“バレエ以外の全てを奪った”母親は、ほとんど半狂乱だったと言える。
だからこそ必ず、この新しい世界でも成功してみせる。美菜はそう決意していた。
勉強を重ね、少しずつ実績を積み、無事にスタジオもオープンまでこぎつけた。ここまでは順調すぎるほどだ。
― これも、篤彦さんのおかげ…感謝しなくちゃ。
このスタジオの出資者であり、最大の理解者である篤彦は美菜の夫だ。
最終レッスンが終わるのは22時。そのあと片付けや事務処理を済ませて、スタッフ全員を見送ってから施錠する。全ての業務を終えてスタジオを出るのは、毎日23時を過ぎていた。
「これで、朝5時に起きて仕事に行く美菜の体力ってどうなってるんだ。ちょっとは体のこと気遣ってくれよ。またバレエ時代みたいに…」
「はいはい。わかってるよ」
「まったく、俺の気も知らずに…。俺は美菜の体を心配して…」
「もう、親みたいなこと言わないで」
美菜が甘えた調子で言うと、運転席でハンドルを握る篤彦は苦笑いした。
「実際、お父さんですか?って聞かれちゃうしな」
「子供嫌いだからうちは作らないの」とサラって言ってる人に限って、実は病気を抱えていたり、辛い経験があって子供諦めたケースもあるから.....
【夫婦、2人。】の記事一覧
2021.06.09
Vol.13
「”母親”にならなくてもいいよね?」夫と徹底的に話し合った妻が、辿り着いた結論とは
2021.06.08
Vol.12
子どもは持たない。3人の女がそう決意した、それぞれの理由とは?「夫婦、2人。」全話総集編
2021.06.02
Vol.11
「子どもを産まないなら、その代わりに…」DINKSでいることを選んだ妻に、夫が持ちかけた提案とは
2021.05.26
Vol.10
「おなかに赤ちゃんが…」そう言いかけて撤回した女に、男が告げた衝撃すぎるニュースとは
2021.05.19
Vol.9
「ごめんなさい…」何度も夫に謝りながら泣きじゃくる妻。その予想外の本心とは
2021.05.12
Vol.8
「君に触れなくなった理由は…」若い女に惚れ込んだ夫が打ち明けた、むちゃくちゃすぎる言い分
2021.05.05
Vol.7
「夫が女に夢中だと知っていたけれど、まさか…」想像以上にショッキングな興信所からの結果とは
2021.04.28
Vol.6
「寝室を分けて、もう何年だろう…」夜しのび込んできた妻に、夫がとったひどすぎる仕打ち
2021.04.21
Vol.5
結婚7年目の妻が「絶対に軽々しく聞かないでほしい」と思っている、デリケートすぎる質問とは
2021.04.14
Vol.4
同窓会で再会した元彼に、心を開いたら…。新婚妻が深く傷つくことになった理由は
おすすめ記事
2019.01.23
華麗なるアラフォー妻たち
華麗なるアラフォー妻たち:夫の年収3,000万円。全てを手に入れた39歳女が抱える、密かな苦悩
2017.10.26
寿退社したものの
1人産めば「2人目まだ?」のプレッシャー。どこまで手に入れれば、世間は納得する?
2019.09.24
スーパーカーの助手席に乗る女
「こんなはずじゃなかった…」12歳年上の開業医と結婚し、悠々自適生活に憧れていた女の誤算とは
2019.03.16
Who?
私を捨てるなんて、許さない。芸能界の頂点にいる女が嫉妬心に駆られて仕掛けた、狡猾な罠
2019.12.24
格差婚~僕の3倍稼ぐ妻~
格差婚~僕の3倍稼ぐ妻~:夫の年収680万、妻2,200万。超ハイスペ妻と結婚した男が受けた、強烈な洗礼
2018.06.28
高学歴女子の遠吠え
高学歴女子の遠吠え:「なんで、あのレベルの女と結婚する訳…?」ハイスペ男子の結婚式で僻む女
2023.07.20
男と女の東京ミステリー
男と女の東京ミステリー:彼女のパソコンで見つけた大量の写真に、男が震え上がった理由
2019.11.24
マルサンの男
「本当はだらしない男なんだ…」妻を失って他の女性と愛を育んでいた男の、涙の謝罪とは
2021.10.05
絶食系女子
美容整形をSNSで逐一報告する29歳女。予想以上にバズり、調子に乗った結果…
2017.10.15
アモーレの反乱
アモーレの反乱:その女は敵か味方か?妻と昔の彼女の思わぬ関係、知らぬは夫だけ
東京カレンダーショッピング
『秋田かまくらミート』:秋田を代表するブランド牛「秋田由利牛」!サシの美しい上質なしゃぶしゃぶ用サーロイン
『肉のABCフーズ』:黒トリュフ塩付!牛タン&A5ランク黒毛和牛を使った極上ハンバーグ
『パンツェロッティ』:具材ごろごろボリューミー!フレッシュな野菜と肉感満載のフライドピッツァ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
『レザンファンギャテ』:しっとりと濃厚で、コクのあるニューヨークスタイルのチーズケーキ
『ル・ボヌール 芦屋』:しっとりサクサク!フリーズドライ苺にホワイトチョコをたっぷりと浸透させた新感覚スイーツ
ロングヒット記事
2024.04.23
今日、私たちはあの街で
3回目のデートで、終電を逃した28歳女。翌朝、男が激しく後悔したワケ
2024.04.23
Editor's Choice~fashion~
最大10連休のGWのお出かけに!カラフルなミニボストンバッグが、万能な理由とは?
2024.04.25
Editor's Choice~beauty & wellness~
すれ違ったときに香るぐらいが好印象!大人のニオイ対策には、上質なランドリーアイテムを取り入れて
2024.04.26
大人の週末ToDoリスト
GWは東京でヨーロッパ旅行気分! 『イタリア展 2024』や『フランス展 2024』などイベント3選
2024.04.28
Editor's Choice~gourmet~
最高に気持ちいい空間で、ラグジュアリーな外飲み体験!今から楽しめるビアガーデン6選
この記事へのコメント