夫婦、2人。 Vol.1

夫婦、2人。:「小さなお子さんを連れてくるのは、ちょっと…」厳しい態度をとった新婚妻の、複雑な胸のうち

結婚しても子どもを持たないという選択は、もう特別なものでもない。

“2人”が、家族のかたち。

明るい未来を信じて、そう決断する夫婦も多い。

それでも…悪気のないプレッシャーや、風当たりの強さに、気持ちがかき乱されることがある。

これは、3人の女が「夫婦、2人で生きていく」と決めるまでの、

選択と、葛藤と、幸せの物語。


ピラティススタジオのオーナー兼インストラクターの美菜の朝は早い。

早朝5時すぎに起床すると、準備もそこそこに恵比寿のスタジオに向かい、広い窓を一人で全部磨くのが日課だ。

スタッフたちは「自分がやります」と言ったり、業者に頼もうと提案したりするけれど、若きオーナーの美菜はそれを聞かない。

「窓を磨くと、心まで綺麗になる気がするんです。大事な私のスタジオだから、せめてこうして心を込めて掃除することで感謝しなくちゃ」

美菜は晴れやかな笑顔でそう言いながら、スタッフたちに紅茶を振る舞いお菓子を出す。朝のティーブレイクだ。

そうこうしているうちに、生徒たちが続々と集まってくる。日曜の朝一番のクラスは大盛況で、今日も定員いっぱいだ。美菜も生徒たちの輪に半分入りながら、いつもの雑談タイムが始まる。

「美菜先生。次のクラスを予約していた鈴木さん、キャンセルだそうです。お子さんみてくれるはずだった旦那さんが急な仕事になってしまったらしくて…」

スタッフの一人が、そう美菜に伝えた。

「そうなんですか。わかりました」

美菜が少々残念そうに声のトーンを落とすと、生徒の1人が口を開く。40代の美容外科の医師・藍子だ。

「鈴木さん、そういうことならお子さん連れて来ちゃえばいいのに。私、喜んで面倒見るよ。小さい子可愛がれるの、嬉しくて嬉しくて。ほら。うち子どもいないから」

顔を曇らす美菜を励ますように藍子が明るくそう言うと、すぐ傍にいた、同じく生徒で30代の建築士・真琴も加勢する。

「うちも子どもがいないんですが…お子さん大歓迎です。旦那さんも急な仕事じゃ仕方ないけど、自分の予定を諦めるのがいつも奥さんっていうのもね」

「その通り」と藍子が大きく相槌を打ち、ホッとした美菜は笑顔を見せる。

そして、周りに視線を配りながら、内緒話をするためにそっと声をひそめた。

「私も、同じ気持ちです。でも、それでもやっぱり、小さなお子さんはご遠慮いただきたくて。実は…」

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