
ねぇ、いくつに見える?:初対面の男に年齢をサバ読みした女。別れ際、彼から告げられた恥ずかしい一言
「じゃあ私、おいとまするね」
蘭子は話を合わせることにほとほと疲れてしまい、席を立つ。
「え、もう?」
「だって夜更かしは美容に悪いから」
「そんなあ…」
あからさまに落ち込む純太の様子を見て、なぜだか蘭子は悪い気がしなかった。
「じゃあさ、LINEかインスタのアカウントを教えてよ。また飲もう」
当たり前のように言う純太の勢いに、断るのも重いような気がして、蘭子は自分のスマホを差し出す。
―ま、いいか。どうせ連絡なんて来ないし。
そう自分に言い聞かせつつも、純太との会話は楽しい時間だったことは否めない。
本当はいつものように1杯だけで帰りたかった。…でもなぜだか、今日の蘭子はいつのまにか2杯目を注文していたのだ。
6歳若い自分を演じるのも、最終的に息切れはしてしまったけど、違う自分になったようでとても楽しかった。
―でも、年齢サバ読んじゃったし。もう会わないもんね。
彼に言った年齢を否定しなかったのは、自分への“気持ちのブレーキ”という意味もある。
38歳の蘭子は、BARで声をかけてくるようなノリの若い男性に、無駄に本気になっている暇はない。
仕事が充実していて、ひとりで生きることを謳歌しているように見える蘭子でも、結婚願望はわずかながら…いや、かなりあるのだ。
本当の年齢を知ったら失望されそうな男には、たとえ気持ちが動いても、本気になる前にブレーキをかけてリスクを避ける。
それが、蘭子の恋のやり方だ。
ただそのおかげか、ここ3年は彼氏がいない状態が続いているのだが…。
「ごちそうさまでした」
蘭子はマスターに頭を下げると、店から出る。
雰囲気もよく、いいお酒も置いてある店だったけど、しばらく行かないだろうなと思った。
自分の家がある鎗ヶ崎方面に向かって駒沢通りをひとり歩きはじめたとき、ハラリと雪が降ってきた。
―そう言えば今日は、今年一番の寒さだって天気予報で言ってたな。
感傷に浸る気もなく、冷めた目で蘭子は天を見上げる。するとそのとき、自分の右腕が何者かに掴まれたのが分かった。
「初雪、だね」
声の主は、さきほどまで隣にいた男。その男が、蘭子の腕を引き留めるように掴んでいたのだ。
「純太さん…?」
「ごめん。この暗い中、1人で帰るのかと思ったら心配で。タクシーに乗るまで見送ろうかと思って出てきたら、歩き出したから」
「家が近いの。車通りも多いし時間も早いから大丈夫よ」
蘭子が腕を振りほどき、避けるように歩き出そうとすると、純太は再び声をかけてきた。
「人は大丈夫でも、車が危ないだろ」
純太は真剣な目で、蘭子に訴えかけてくる。
「家の前まで送らせて欲しい。蘭子ちゃんにもう一度会いたいから…」
ハラハラと落ちる初雪。それが蘭子にとって、単純な自然現象からロマンチックな演出のひとつに変わる。
その瞬間、彼に嘘の年齢を告げてしまったことを蘭子は後悔したのだった。
▶他にも:合鍵を使って、1ヶ月ぶりに彼女の部屋を訪れたら…。男が見てしまった衝撃のモノとは
▶Next:1月13日 水曜更新予定
蘭子の本当の年齢を知らない純太から、猛烈なアプローチが始まるが…?
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この記事へのコメント
日本男子は年齢が全てって感じで絶対聞いてくるけどね🤦🏼♀️