SPECIAL TALK Vol.74

~この体だからこそできることをやりたい。逆境を覆しつづけてきた自信が、次なる挑戦に繋がる~

赤星:それが野球ではなく、小学4年生からサッカーをやっていました。

金丸:いきなり変化球ですね(笑)。

赤星:父は僕に対して「何かをやれ」と言うタイプではなくて。しかも少年野球だと親子一緒になるので、それは嫌だなと。

金丸:活躍しても活躍しなくても、「指導者の子ども」という色眼鏡で見られそうですからね。

赤星:だから、ちょっと反抗してサッカーを始めたところ、かなり面白くて、すっかりはまってしまいました。選抜チームにも選ばれ、ちょっと抜けられなくなって。6年生から野球も始めたものの、中学校でどちらかを選択するとなったとき、気持ちはサッカーに傾いていました。ところが、父が初めて一言、「おまえ、本当に野球やらないのか?」と。

金丸:なんだ、お父様もやってほしかったんだ(笑)。早く言ってくれたらいいのに。

赤星:本当に(笑)。それで野球を選びました。

金丸:赤星さんは現役時代、俊足を生かして盗塁王にも輝いています。子どもの頃から足は速かったんですか?

赤星:速かったですよ。でも小学校のときは、僕より速い子が、ひとりいました。だから陸上の大会では、ふたりで同じ種目に出ないように、僕はいつも他の種目に回されていましたね。同じ種目で1位と2位を取るよりも、別々の種目で1位を2つ取ったほうがいいと。彼は100メートル走で、僕はハードル。いつもふたりで県大会まで行っていました。

金丸:でも、赤星さんもきっちり1位を取るんですね。

赤星:ただ、そういう環境ですから、自分がずば抜けて速いとは思っていませんでした。小学校に限らず、僕は人生において、そのときそのときで必ず僕より足が速い人に出会うんですよ。

金丸:ライバルや目標になる人がいつでもいるというのは、とてもいい環境だと思います。

赤星:これまでいろいろな人から影響を受けてきましたが、生まれて初めて「この人を目指すしかない」と思ったのは、中学の1つ上の先輩です。まず足が速い。そしてピッチャーで、頭はいいし、かっこいい。

金丸:完璧ですね!

赤星:その先輩をずっと追いかけながら、上には上がいるんだなと思い知らされました。

金丸:一部分だけ切り取れば、赤星さん以上に才能があるように見える方もいらっしゃったでしょう。でも、赤星さん以上に俊足だったその先輩だって、プロ野球選手になれたわけじゃないですよね。

赤星:そうですね。先輩もプロを目指していたけど、その夢は叶わず。でも、その後、ジャイアンツのトレーナーになったんです。やっぱりすごい人だと思います。

金丸:プロ野球に携わるのを諦めきれなくて、相当努力されたんでしょうね。本当に立派な先輩だ。

赤星:僕はそれを知らなかったんです。のちのち阪神対巨人戦の際に、原 辰徳監督に紹介されて、まさかの再会。びっくりしました。

自信を砕かれたからこそ、工夫と研究が必要だと痛感

金丸:高校はどちらに進学されたのですか?

赤星:愛知県立大府高校です。

金丸:愛知には中京大中京や東邦、あのイチローを輩出した愛工大名電など、甲子園の常連校がいくつもありますが、公立高校を選んだのはなぜですか?

赤星:僕は野球漬けの毎日というのは嫌だったし、勉強もしたいと思っていたので。

金丸:勉強ぎらいだった私とは、えらい違いです(笑)。

赤星:それに公立なら、1年生から試合に出られるだろうという下心もありました。でも見事に期待を裏切られましたね。蓋を開けてみたら、とんでもなくレベルが高くて。あとからわかったのが、「愛知の強豪校を自分たちの力で倒したい」と考える人たちがたまたま集まった世代だったんです。

金丸:学校のネームバリューに頼らず、自分の力で挑戦するというのはかっこいいじゃないですか。

赤星:入学して2日目の部活で、最初の洗礼を受けました。全6チームに分かれてのリレーです。「おまえ、足速いんだろ」と言われ、「自信あります!」とアンカーになったのですが、1番にバトンをもらったのに、4人に抜かれて5位になってしまい。

金丸:えっ。そんなに足が速い人ばっかり!?

赤星:しかも、4位以下は罰ゲームがあって、僕のせいでみんなが罰ゲームを。あのときのショックは、今までの人生で一番かもしれないですね。

金丸:自信満々だったのがへし折られるわ、みんなに迷惑をかけるわ。相当なショックかと。

赤星:「足が速いだけじゃ勝てない」というのを痛感しました。そのときから脚力だけでなく、走塁や盗塁の技術を磨かなきゃいけないと考えはじめたんです。

金丸:上には上がいると知ったときに、諦めるのではなく、勝つにはどうしたらいいかを考える。それができるのが、一流なんでしょうね。その技術がのちのちプロになってからも武器になるのだから、負けるのは悪いわけじゃない。

赤星:人って、負けないと、工夫や研究をしなければと思えないものです。プロになってから、盗塁についていろいろな選手に聞いてみると、「いや、普通に走っただけ」という答えが返ってくることが多くて。

金丸:ただ走るだけでよかった人と、失敗して考えて改良して、を繰り返していた赤星さんとの間では、当然、差が生まれます。お話を伺っていると、いろいろなことを考えるのがお好きなんですか?

赤星:大好きです。小学校のときから、何かやるときに準備をしないで臨むのは嫌な子どもでした。

金丸:作戦を立てたり、準備をしたりするのが好きなタイプなんですね。

赤星:「え、こんなことまで準備してたんだ」って驚かせたい。僕は小中学校で生徒会長をやったんですが、それもいろいろな企画をやって、みんなが喜ぶ顔が見たいというのが動機です。だから、すごく用意周到に準備して。

金丸:すごい!先生の言うままに動くようなタイプとはちょっと違った優等生ですね。しかし、そもそも勉強もしたいから公立高校に進んだ、ということでしたが、プロ野球選手になりたいとは考えていなかったのですか?

赤星:プロになれると思っていたら、野球漬けの毎日もアリだったかもしれません。でも当時は、まったく考えていませんでしたね。

金丸:それはなぜでしょう?

赤星:子どもの頃から、球場でプロ野球選手の体の大きさや貫禄を間近に見てきたので、その姿と自分を比べて、「絶対ムリ」だと決めつけていました。

金丸:本当にまったく?

赤星:はい、まったくです(笑)。

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