パンドラの箱~禁じられた一手~ Vol.1

パンドラの箱~禁じられた一手~:深夜2時のリビングに、妻のあらぬ姿が…。寝室を抜け出した夫の行為

僕はそっとベッドから抜け出し、物音を一切立てないよう細心の注意を払いながら、寝室を後にした。

少しだけ開いた扉の隙間からリビングの様子をうかがうと、麻里は電気もつけず何かを大切そうに見つめている。それは、麻里が腰掛けているカッシーナのソファには似つかわしくない、キャラクターのアルミ缶の箱。

その箱に、僕は見覚えがあった。あれは、ここに越してきたときのこと。

荷解きを終えた夜に、僕がシャワーから出ると、彼女が大事そうに、その箱を抱えていたのを目にしたのだ。

きれい目なファッションを好む彼女にしては、随分子供じみたアイテムだったゆえに、記憶に残っていたのかもしれない。

きっと昔の恋人との写真や手紙なんかも入っていたりしたのだろう、バツの悪そうにしている様子が気になって、それについて彼女に尋ねるときっぱりこう言った。

「これは絶対に見ちゃダメ。夫婦の間でも、1つくらい秘密はあるでしょう」

それ以来1回も目にしなかったので、クローゼットの奥か何かに入れていたのだろう。

―しかし、なぜ。

なぜ、それをこの夜中にひとり、大切そうに見つめているのか。

僕は、純粋に知りたいという欲求に駆られ、トイレに起きたらリビングの麻里に気づいた、というていで声を掛けてみることにした。

「…ん、麻里?あれ、起きてたのか?」

咄嗟の行動にしては、なかなかの演技だったと思う。

けれど、そんな思いは一瞬で吹き飛ぶほどに、衝撃的な光景が僕の目に飛び込んできた。


キャラクターのアルミ缶の上に乗せられた白い紙には、緑と黒の印刷と、あと端っこに赤い何かが見えた。

書類か何かだろうとはすぐにわかったのだが、それが押印までされた離婚届だと気がつくまでには、数十秒かかった。

「…え」
「あ、違うの!そうじゃないの、これは!勘違いしないで!!違うのっ、あのね」

慌てふためきながらも、必死に弁明しようとする麻里が目の前にいるのに、あまりの衝撃に、まったくもって彼女の言葉が耳にはいってこない。

「…お願い。私の話を聞いて…ください」

しばらくの間、茫然と立ち尽くす。落ち着きを取り戻した麻里は、ときおり言葉を詰まらせながらも、少しずつ話しはじめた。

「私、今は離婚したいなんて思ってないよ。というか、本気で離婚したいなんて一度も思ったことない。3か月前ね、ちょっとある人に再会して…」

―“今は”

その言葉に引っかかりを感じたものの、彼女の釈明をひとまず聞くことにした。

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