SPECIAL TALK Vol.72

~書には人の心情や想いが宿る。書を通じ、迷い多き今の日本を明るくしたい~

2020年のニューリーダーたちに告ぐ

NHK大河ドラマ『麒麟がくる』の題字を担当したのは、国内だけでなく、海外でも注目されている書家の中塚翠涛氏だ。

テレビ番組の題字、ドラマの書道監修、バラエティ番組への出演など多方面で活躍するが、「何が自分に合っているかを知るために、新しい経験や体験も恐れずに挑んできた」と語る。

長い歴史を持つ「書」を“立ち返る場所”と表現する中塚氏は、どのように書と出合い、どのような経験を積み重ねてきたのか。また、誰もが一度は「書道」を経験する日本において、書道教育はアート教育たりうるのか。

中塚氏の歩みを振り返りながら、日本人とアートのよりよい関係、それを構築するために必要なものは何かを探る。

中塚翠涛氏 岡山県出身。4歳から書に親しみ、古典的な書法を修得。筆の弾力と墨の無限のグラデーションに美しさを見出し、和紙と墨のみならず、陶器、ガラス、映像など、幅広い手法で独自の表現を追求。2016年12月にパリ・ルーブル美術館の地下展示会場「カルーゼル・デュ・ルーブル」で開催されたSociete Nationale des Beaux-Arts 2016では、約300㎡の空間に書のインスタレーションを発表し、「金賞」「審査員賞金賞」をダブル受賞。ユネスコ「富士山世界遺産」、映画『武士の献立』など多数の題字を手がけ、2020年大河ドラマ『麒麟がくる』も担当。『30日できれいな字が書けるペン字練習帳』(宝島社)シリーズは、累計400万部を突破。


金丸:本日は書家の中塚翠涛さんをお招きしました。

中塚:お招きいただきありがとうございます。

金丸:今日は『銀座 鮨青木』の2代目、青木利勝さんが今年新たにオープンした『離』をご用意しました。月替りのテーマに沿って、青木さんのこれまでの経験をすべてつぎ込んだ独創的な料理をいただけます。魚はお好きですか?

中塚:はい。魚も肉も野菜も(笑)。お鮨も楽しみです。

金丸:今、中塚さんは国内だけでなく、海外でも活躍されています。最近ではNHKの大河ドラマ『麒麟がくる』の題字を担当され話題になりましたね。

中塚:「1年間続く物語と桃山時代を5文字に託してください」と壮大な依頼をいただきました。

金丸:時代そのものを字で表現するって、ものすごくレベルの高い要求ですね。

中塚:スタッフの方それぞれに思い入れがあって、それをどう表現するか、一緒に悩みながら作り上げました。最初にお見せしてから、最終的な題字ができあがるまで3ヶ月ほど、毎日のように書いていましたね。

金丸:今はコロナ禍という状況なので、海外での活動は難しいと思いますが。

中塚:でも、こういう状況だからこそ制作に集中しています。想像力を膨らませたくて、あえて古典的な勉強をしたり、実際には旅に行けないので、頭の中で妄想旅行をして外国の情景をイメージしたりしながら制作活動に励んでいます。

金丸:アーティストならではの過ごし方ですね。中塚さんは書道の指導もなさるんですか?

中塚:この期間中、知り合いのお子さんをオンラインで指導しました。以前はパソコンの画面越しに指導するなんて想像もしませんでしたが、意外にオンラインのいいところもあり、決められた時間内のお子さまたちの集中力に驚きました。

金丸:友達同士でふざけ合うこともできませんからね(笑)。

中塚:字の練習というよりは、線の練習がメインで、虹や雷さま、雲の線を毎回必ず描きます。親御さんからすると「お絵かきの時間じゃないのに」と思われるかもしれませんが、筆の持ち方と姿勢は必ず気を付けて、なぜそれが必要か、毎回お子さま自身に答えていただきます。そして、楽しい絵を描いているうちに、どんどん線がきれいになっていくんです。またその絵から似ている平仮名を探していくとお子さまの反応が劇的に変わり、上達しました。

金丸:それは面白い。上達が実感できれば、ますます楽しくなるでしょうね。私は日本の芸術教育や、日本人とアートの距離に違和感を持っています。本来、アートは人生を豊かにしてくれるもののはずです。中塚さんとお話しするなかで、日本とアートの未来についても考えることができればと思います。よろしくお願いします。

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