2020.09.19
SPECIAL TALK Vol.72金丸:そうなんですか。中塚さんは楽観的なタイプのようですね。
中塚:根拠はないけど、楽観的です(笑)。中塚家自体が明るくて、寝て起きたらだいたいのことは忘れているような家族です(笑)。
金丸:それはいい家庭ですね。
中塚:人間だからどうしても悲しいこともあるし、つらいこともあります。でも、いくら悲しんでも悩んでも、寝て起きたら朝は来る。実は私、笑いすぎておなかが痛くて目が覚めたことがあるんですよ(笑)。
金丸:え、夢の中で。そんなことありえるんですか(笑)。
中塚:それで、「私は„笑い星“の人なんだ。だったら楽しく生きよう」と腹をくくりました。
金丸:私もそんな楽しい夢が見たい。
中塚:虹のジェットコースターに乗る夢を見たこともありますよ。雲の上に落ちると、ふわっと跳ねて。「こんな夢を見たよ」と両親に話したら、「あなた本当に平和ね」とあきれられました(笑)。
金丸:うらやましい。私は観た映画にすごく影響されます。しかも、爽快な場面じゃなくて、劇中で主人公が戦う場面を私が追体験するので、夢の中でも気が休まりません。ちなみに、進学について反対されたご両親ですが、今はいかがでしょう?
中塚:応援してくれています。『麒麟がくる』の放送が始まった直後、私はヨーロッパに行っていたのですが、番組を録画しているのに、母が「今、こうなってるよ」と内容を全部教えてくるんです。
金丸:反則じゃないですか(笑)。
中塚:私以上にのめり込んでて、「あの子はいいわ」と役者さんにもベタぼれです(笑)。
アートが身近な欧米へ渡り、日本との違いを肌で感じる
金丸:先程、中塚さんは絵と文字をあまり区別していないとおっしゃいましたね。
中塚:絵も文字も伝達ツールのひとつですし、文字は元をたどれば絵からスタートしています。だから「これは絵なの?文字なの?」と聞かれることに違和感があります。
金丸:そうなんですね。日本人よりも海外の人のほうが、文字がわからないぶん素直に受け取りそうな気がします。
中塚:おっしゃるとおりです。最初のうちは、日本で学んだことをそのまま海外に持っていこうとして、温度差を感じていました。だから海外の人たちが何をいいと感じるのかを知りたくて、とにかく通うことにしたんです。この15年くらい、時間を見つけてはとにかくヨーロッパやアメリカ、北欧……興味のある国を訪ねて回りました。
金丸:中塚さんは実践派ですね。
中塚:おかげで考え方が大きく変わりました。書のあり方も変わり、同時に日本の良さにも気づくことができたかなと思います。
金丸:具体的には、海外の方はどういった点が違いますか?
中塚:まず欧米の人たちは、自分が好きか嫌いかというのがはっきりしていますね。それから、どんなイメージで制作したかをこちらが話す前に、すでに自分でイメージを持っているんです。だから「いや、僕はこう感じるな」とはっきり言います。
金丸:現地で作品を制作する機会もおありなのですか?
中塚:あります。以前、ピカソやマティスも制作していたパリの「イデム」というリトグラフ工房で制作したことがあります。リトグラフと書は表現の仕方が違いますが、歴史のある工房に身を置き制作できた経験は宝物です。その工房は予約制で見学できるのですが、制作中に「どういうイメージで作ってるの?」と見学者から普通に話しかけられるんです。
金丸:それは面白い。日本ではなかなかそういう場面はないですよね。
中塚:しかも、こちらが「これはこういうイメージで、このあとはこうしようと思っている」と説明すると、「どうかな、それ。今のままがいいと思うよ」と。
金丸:ええっ。自分の考えを言ってくるんですね。
中塚:私もびっくりしました。でも、彼らは決して「言うとおりにして」とは思っていなくて、「今思ったことを伝える」ことを大事にしているんです。
金丸:日本人とは真逆ですね。しかも相手がプロであっても、堂々と自分の意見を言う。それって、個人の資質というよりは、欧米においてアートが身近であることも要因ではないでしょうか。
中塚:そうだと思います。アートの教養レベルが高い、低いという話ではなく、身近であるということが、大きな違いを生んでいるのかと思います。
金丸:でも、制作中にいろいろ言われると、やっぱり気になりますよね。
中塚:最初のうちは「せっかくアドバイスいただいたから、言われたようにやらなきゃいけないのかな」とか、「今やっていることじゃだめなのかな」と、ちょっと悩むこともありました。でも「それでも私はこっちがいい」と自分の想いを確認しながら続けていくうちに、気にならなくなりました。しかも、仕上がったものを見て、それはどうかなと言っていた人が「あ、それいいね!」って言ってくれる(笑)。
金丸:素直ですね。負け惜しみを言うこともなく、いいものはちゃんと認める。それもまた、アートを受け止める姿勢があるということなのかもしれません。
中塚:こうした経験をするうちに、まずは立ち止まって、「私がいいと思うものはなんだろう」という心の声を聞くようになりました。
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