再会は、突然に。
「結婚する気がないなんて…。ないならないって、どうしてもっと早く言ってくれないのよ…」
涼は2歳年上で、同じ広告代理店に勤務している。
もともと関西の私立一貫校出身で、端正な顔立ち。マイルドな関西弁が心をくすぐり、時にズルいと感じるほどだ。
一緒にいると楽しくて、優しくて。お互いの仕事への理解もあったし、年収は1,000万以上で、しかも安定している。
交際を開始した時から、私は彼との将来を信じて疑っていなかった。
絶対に結婚すると思っていたのに、いつからこうなってしまったのか。仲はいいし、喧嘩だってあまりしていなかった。 しかし本当に、涼は結婚願望がなかったのだろうか?
以前はあると言っていたような気もしたが、ここ最近彼が結婚の話を避けていたのは事実だ。
ーどうしよう…私、またあの婚活市場に放り出されるの?
目の前が真っ暗になっていく。友人たちは続々と結婚していき、独身でもステディな彼氏がいる人がほとんどだ。
また、独身で彼氏のいない女の子達は“出会いがない”といつも嘆いている。
婚活市場という荒波の中で自分は戦えるのか、全く自信がない。それに、29歳の自分の市場価値はいくらなのだろう。
本当に計算外だった。まさかの突然の出来事に、私は家に帰る気にもならず、当てもなく一人でとぼとぼ歩く。
とりあえずお茶でも飲んで気を落ち着かせようと、たまたま通りかかった表参道交差点のすぐの「ザ ストリングス 表参道」の『Cafe & Dining ZelkovA』に入ることにした。
注文したホットコーヒーに口をつけながら、改めてさっきの涼の言葉を思い出した。
ー私、この先結婚できるのかな。このまま独身だったらどうしよう…。
急な不安に襲われ、胸がザワザワしてくる。
一応会社は安定しているものの、いつ何時、何が起こるか分からないのが今のご時世。それに一生独りよりも、人生を共に歩んでいけるパートナーは欲しい。
“女、おひとり様、老後、貯金”
そんなことを独りで必死にググっている時だった。
「あれ…結衣ちゃん?」
「え?」
陽が差し込んでいたテラス席のテーブルが、一瞬、黒い影に覆われた。顔を上げるとそこには、大学時代にアルバイトが一緒だったユリアが立っている。
「え…もしかしてユリアちゃん!?わ〜久しぶりだね!」
「本当久しぶり〜!元気だった?」
学生時代、私とユリアは、大手のコーヒーチェーン店で働いていた。ユリアの方が先に辞めてしまったためそこから交流が途絶えていたが、彼女のことはよく覚えていたのだ。
まっすぐに、肩の下まで伸びた黒髪のロングヘアー。
昔からそれが彼女のトレードマークだった。輝く漆黒の髪はとても美しいが、同時に少しだけ怖くも感じたのは気のせいだろうか。
だが、そんな一瞬の違和感は、その後の彼女の一言によって吹き飛んでしまった。
「結衣ちゃん、今は何しているの?お仕事は?…そうだ、今度ゆっくりランチでもしようよ♡」
笑顔での提案に、私も思わずテンションが上がる。
「いいね!しよしよ。LINE交換しよっか」
こうして、私たちは次回ランチをする約束をして別れたのだった。
この記事へのコメント
つまりフレネミーってヤツですね。
ユリアの本性が少しずつ出て来るのかな?
楽しみですね。