メイコの周りを彩る、ブランド品の数々。だけどそれらは、男に貰ったものではない。
ブシュロンのリングは予算達成のお祝いに、ミキモトのネックレスは生まれて10,000日目のお祝いに自分で買ったものだ。
そしてセリーヌのバッグは、事業立ち上げの記念として購入した。
メイコは“ブランド物のバッグやアクセサリーは、気に入ったものをご褒美として自分で買う”と決めているのだ。
―次は何にしようかなあ。
自身の会社で、先週発売となった新作ランジェリー。その追加生産が決まったら自分にご褒美を買うと決め、メイコは仕事に没頭してきた。
次に購入するブランドアイテムのことを考え出すと、ワクワクが止まらなくなってくる。しばし仕事の手を止め、メイコは空想にふけった。
―バッグがいいかな?そうね、ブルー系の!
メイコはブティックでお気に入りの逸品を手に入れるあの感じを想像し、幸せなため息をつく。するとそのタイミングで、送迎車が銀座の店の前に到着した。
自身の大切な城である、ランジェリーショップのドアを開ける。すると中から元気な声が飛んできた。
「おはようございます、メイコさん!」
メイコより少し早く出勤していたのは、店を手伝ってくれている浦田莉子だ。
元々ここの常連客だった莉子は、大学卒業後にメイコのショップへと入社してきてくれた。6歳下の彼女はメイコにとって、可愛くて仕方ない妹分なのだ。
「メイコさーん。今日、例の男性と会食ですよね?」
メイコがソファに腰を下ろすやいなや、莉子は少し口を尖らせて言った。
例の男。それは先週の交流会で出会った、高級ワインショップ経営者のことだ。メイコに会って早々、“お食事会”に誘ってきた。
「あの人、メイコさんに対して明らかに下心ありますよね」
その様子を会場で見ていた莉子は、心配してくれているのだ。
「んー。そうかもしれないけどね」
メイコは爽やかに苦笑した。
莉子が水切りしてくれていたバラを花瓶に生けながら「こういう誘いって難しいわ…」とメイコは思う。
もし闇雲に断ったら、勝手に男と女の関係を想定しているみたいだからだ。
向こうにそんな気が微塵もなかったとしたら「こっちはビジネスで誘ってるんだぞ」と、怒られるかもしれない。そして、勘違い女だと思われる可能性だってあるのだ。
だから、いつも1回は食事に付き合うようにしている。痛い目を見ることも多いが、これまでの統計上、7割くらいは有益な会になる。
―さ、今夜はどっちに転ぶか。
メイコは1日の仕事を終えると、18時には莉子に店じまいを任せて、待ち合わせ場所へと向かった。
六本木の交差点でタクシーを降りて、メイコはキョロキョロと辺りを見回す。するとそこに、俯いてスマホを操作している、若いスーツ姿の男性を見つけた。
―あれ。あの男性っぽいな?
メイコが近づくと、彼が白い歯を見せて笑った。
「あ、メイコちゃん!改めまして、将人です。忙しいのに来てくれてありがとうね」
「いいえ。こちらこそです」
そう言ってメイコは、隙のないカンペキな笑顔を見せる。
―メイコちゃんってなによ!?タメ口だし、なんだか馴れ馴れしくなってる?
内心、そう感じて不快になる。しかしそんな感情はいちいち出さずに隠しておく。そのまま2人は、人の行き交う六本木の街を、目当てのレストランまで歩いた。
そのときメイコの目に、あるものが飛び込んできたのだ。
この記事へのコメント
かわないでちゃんのがしっくり
誰がどう見たっておねだりしてるとしか思えない。