2020.07.18
東京テラス族 Vol.1交錯する、4人の想い。
「優子、最近どう?」
「うん、相変わらず。裕太は?」
そんな世間話をしていると、ふわっと風が吹いた。それと同時に、フリージアの良い香りが私たちを包み込む。
—フリージア…。
振り返ると、麗華が立っていた。
「ごめんね、お待たせ!」
麗華は淡い色のワンピースに、白のDiorのサドルバッグを持っていた。欲しいと思ってチェックしているものの、未だに手が出せずにいる物だ。
柔らかな笑顔で登場した麗華の長い髪が、風になびいて、ふわふわと揺れる。指先まで透き通ったように白くて美しい肌に、綺麗な顔だち。
誰もが憧れる麗華だが、そんな彼女を一番熱い視線で見つめているのは、誰でもない、裕太だった。
「相変わらず、麗華が来ると一気にハリウッド感が出るね(笑)」
「なにそれ、やめてよ」
談笑する二人を、私は少しだけ複雑な気持ちで見つめる。
麗華には、何をどうやっても敵わない。それは当然わかっていることだけれど、裕太のあの笑顔を独占できる麗華が心底羨ましかった。
そうして三人で話していると、ようやく最後の一人がやってきた。
「修二、遅いよ」
長身で、端正な顔立ち。今ドキの男子というよりは、正統派の日本男児というイメージの修二は、きっと和装がとても似合う。
裕太とはまた真逆のタイプのイケメンだが、彼もご多分にもれず、実家が目黒で、現在は父親の事業を手伝っている生粋のお坊ちゃんだった。
「今日も活動してんなぁ。なんだっけ、テラス族だっけ?」
修二はいつもクールで、私たちがいつもテラス席で楽しんでいるのを、斜に構えて見ている。
実は私たちは(コロナの影響もあり)以前にも増して”テラス席”にこだわっており、毎回東京にあるお洒落なテラス席を好んで探していた。
そうして毎週のようにテラスに集い、お酒を飲んだりお茶をするのが大好きな自分たちを、“東京テラス族”と呼んでいるのだ。
「まぁせっかく4人が集まったことだし、乾杯でもしますか」
「かんぱーい!!」
掲げたシャンパングラスが太陽光に反射して、キラキラと輝く。
私は、この瞬間が大好きだった。東京の中心にあるこんなお洒落なテラス席で、こうしてみんなでシャンパンを飲んでいる自分を褒め称えたくなるのだ。
「あれ?麗華じゃん」
そんな中、通りすがりの男性が麗華に話しかけてきた。すると同時に、裕太と修二とも楽しそうに会話をしている。
—チクリ。
さっきの自己陶酔が急に現実に戻されていき、 胸が少しだけ痛む。
どんなに一生懸命表面を取り繕っても、彼らのような生まれつき華やかな人種、つまり“生粋の”アッパー層の閉ざされたコミュニティーには、未だに入れない自分がいるから。
「こちら優子。みんなの友達で」
そう麗華が紹介してくれたものの、彼はきっと私の事なんて眼中にないだろう。
このメンバーでいると、こうした“生まれながらの格差”を感じずにはいられない時がある。
男子二人は、この界隈の二世軍団とほぼ繋がっている。麗華はいるだけで華があるし、どんな場所に行っても、常に私は“麗華の友達”程度にしか思われていないのかもしれない。
—何者でもない、自分…。
「なぁ、俺たちこのままでいいのかな」
そんな中、突然こんな事を言い始めた裕太。私と裕太では置かれている状況が全然違うけれど、痛いほどわかる。
この街は一見全てが眩しくて、楽しそうな誘惑で溢れている。そこに集う人たちも全員が輝いて見えるけど、実際には人それぞれ悩み、葛藤している。
そして“何者か”になりたくて、皆もがいている。
でもその漠然とした思いと野望を、みんな上手に隠しながら生きているのが、東京という街。
「今年の夏を、最高のものにしようぜ」
裕太のまるでトレンディードラマに出てきそうなクサイ台詞に、私は大きく頷きながら誓った。絶対に、この夏を自分至上最高の夏にしてみせる、と。
そしてこの宣言通り、私たち東京テラス族の熱い夏が始まったのだ。
テラスにはさっきまで夕日が強く差し込んでいたのに、いつのまにか日が沈んでいた。
【今週末の東京テラス族】
店名:『CICADA』
住所:港区南青山 5-7-28
▶他にも:「スマホを落とした瞬間に…」デート中、カップルの仲が一瞬にして険悪になったワケ
▶NEXT:7月25日 土曜更新予定
動き出した優子の恋。一方の裕太は・・!?
※本記事に掲載されている価格は、原則として消費税抜きの表示であり、記事配信時点でのものです。
この記事で紹介したお店
シカダ
これ、ドラマなら誰が誰を演じたらサマになるかな、なんて考えてました笑
自分もこういう生粋のアッパー層に生まれたかった。。
嬉しいかも〜!ちゃんとパラソルあるかも教えて欲しい!
直射日光当たるの?と受け取れる記述が気になった💦
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