優子の場合。
—麗華:優子、今週金曜何してる?
麗華からのLINEに、私は慌ててスケジュールアプリをチェックする。今週金曜は、たまたま予定が入っていない。
去年まで週末は予定を詰め込むように入れていたけれど、ステイホームが終わって、以前ほど食事会にも熱が入らなくなっていた。
—麗華:いつものメンバーで、テラス族しよう♡
麗華は、裕太や修二と同じ青学出身で、三人とも初等部から一緒の仲だ。学年は違うものの、お互いの親同士が慶應の同級生で、仲が良いらしい。
未だに実家暮らしの麗華は、私とは比べものにならないくらい良い生活をしている。華やかな世界に身を置いているが、大学から上京して同じ学部になった私と仲良くしてくれているのだ。
「よし!これで金曜夜の予定が埋まった」
会社の化粧室で、麗華に返信をしながら、ふと鏡に映った自分を見つめ直す。
丸の内にある大手企業で働いている私。先月、30歳の誕生日を迎えた。
若さだけで勝負できる20代は終わりを告げたけれど、この東京では、年齢に関係なく人生を謳歌し、輝いている人も多い。
けれども、漠然とした不安も抱えている。このまま一生この会社にいるの?でも辞めたところで、私にしかできないことってなんだろう?
それに女の人生は、誰と結婚するかによって大きく運命が変わることも、残念ながら知っている。
「私は5年後には、ちゃんと結婚して子供もいるのかな…」
独り言は、意外にも化粧室の壁に反響し、大きな声となって自分に戻ってきた。
◆
そして、約束当日。先日購入したものの、おうち時間が長くなった影響でもはや出番を失いかけていた白のロングワンピースに、クロエのウェッジサンダルを合わせて、集合場所である『CICADA』へと向かった。
まるで地中海に来ているような気分になれる、『CICADA』のテラス席。
初めてここへ来た時、まさに雑誌で見ていたような世界がそのまま再現されていることに驚き、そしてそこに自分がいることが何より嬉しかったのを覚えている。
(だから未だに、このお店に来る時はどこかプチリゾート気分の装いをしたくなる)。
「あれ?裕太だけ?早いね」
水の流れが気持ちの良いテラス席へ通されると、遅刻常習犯の裕太だけが珍しく着いていた。
「あぁ。今日仕事が早めに終わって。時間があったから、ちょっと買い物をしていたんだよね」
どことなくあどけなさが残り、笑うとまるで子供のように弾けた笑顔を見せてくれる裕太。
実家は田園調布にあり、今は父親の仕事関係なのか、高級外車の販売をしながら青山一丁目に一人暮らし。
「先に飲んでおくか。どうせあいつら、遅れてくるだろうし。優子、シャンパンでいいの?」
「うん」
夏の夕暮れの日差しを浴びた肌は、熱を帯びている。テラスに差し込む日の光が眩しくて、私は少し目を細めながら裕太を見つめた。
何を隠そう、彼は今、私が恋い焦がれている相手だから。
この記事へのコメント
これ、ドラマなら誰が誰を演じたらサマになるかな、なんて考えてました笑
自分もこういう生粋のアッパー層に生まれたかった。。
嬉しいかも〜!ちゃんとパラソルあるかも教えて欲しい!
直射日光当たるの?と受け取れる記述が気になった💦