2020.05.21
SPECIAL TALK Vol.68日本の価値を失わないために必要なのは庭職人のエデン
金丸:日本には、海外の人が驚くような日本独自のものがたくさんあります。でも当の日本人はそれに気づかないままどんどん欧米化し、特徴や強みをなくしているように思います。だけど、石原さんはそこにこだわる。たとえば、苔に着目しているのだって、そうですよね。
石原:僕に苔の話をさせたら止まらないですよ(笑)。2007年、『タイムズ』紙の一面に、「モスマン(苔男)」というニックネームをつけられて、テニスプレーヤーのフェデラーよりも大きく載りました。あれはうれしかったですね。
金丸:それまでイギリスでは、苔はゴミ扱いだったそうですね。
石原:でも僕が苔を使った庭づくりをし、しかもゴールドメダルを取ったことで、「イギリスの文化を変えた」と新聞で大々的に取り上げられました。
金丸:外国人だけではなく、日本人でさえも苔が人を驚かせ、感動させるなんて考えもしません。大事なのは、まずはそこに気づくかどうか、そして気づいた上できっちりやりきるかどうかです。
石原:最近は壁面緑化の仕事も多くなりましたが、そこでも苔は大活躍してくれています。
金丸:だけど、僕が不思議なのは、モトクロス選手を目指していた石原さんが、生け花を勉強したとはいえ、どうしてここまでアーティストとして才能を開花させたのか、ということです。もともと才能があったのか、あるいは勉強熱心なのか、ご自身ではどのようにお考えですか?
石原:花や庭に限らず、必要なことは一生懸命勉強します。中学、高校のときはずっとオートバイのコースの絵を描きながら、どう走ればいいかを研究していましたし。
金丸:知識を詰め込む勉強というより、分析する力が卓越しているのでしょうね。
石原:分析は好きですね。モトクロスの選手時代も、シフトの位置やハンドルの位置、オイルの濃度をいろいろ試しながら、「これだ」というのを探っていました。庭を作るときも根本は一緒です。ただ、ここまで必死にやれているのは、やはり4億円の借金を背負ったからじゃないかと。
金丸:借金でアートの才能が花開いた。それは面白い。
石原:返済のために稼がなきゃいけない。そして稼ぐためには、圧倒的に感動してもらわないといけなかったので。
金丸:人を喜ばせるために何をすればいいかを突き詰めて考えながら、毎回毎回、真剣勝負で望んでいれば、感覚も研ぎ澄まされるだろうし、何を求められているかにも敏感になる、というわけですね。
石原:ハングリーになれたことで感性が磨かれましたね。自分の好きなことで稼げているので、仕事が楽しくてしょうがないです。
金丸:庭で人を集められるということは、たとえば企業と組んだときに、その企業の価値すら上げることができるということだと思います。
石原:おっしゃるとおりです。ですから最近は、僕の庭を見て感動してもらうだけでなく、それに付随して、どういうことができるかを考えています。基本は庭ですが、金融や不動産のことなどもっと勉強しないといけません。
金丸:いろいろとやりたいこともたくさんあるでしょうけど、これからの夢はありますか?
石原:今、長崎に、僕の一生をかけて「庭」をテーマにした街を作ろうとしています。世界中の庭師がガーデニングについて学べる学校を作り、周辺には飲食店やカフェ、ホテルも建設して、庭に関するすべてのものを集約した街を目指しています。
金丸:なぜそのような街を作りたいと?
石原:それは庭に携わる職人が稼げるようにしたいからです。庭師はかなり体力を使う仕事なので、ある程度の年齢になると引退せざるを得ません。でも技術はあるし、口も達者。だったら先生として活躍してもらおうと思ったんです。長崎市の中心部から車で10分ぐらいの5,000坪の土地にすでに庭を作っていまして、長崎もほかの都市と同様、空き家が増えているので、これを買い取って毎年5,000坪ずつ増やしていき、街を丸ごと庭にしていこうかと(笑)。スペインのサグラダ・ファミリアのガーデニング版です。
金丸:すごい計画ですね。壮大だし、非常に意義のあることだと思います。腕のいい職人が腕に見合う年俸をもらえる社会じゃないと、良いものは生まれません。
石原:僕は日本の武器は、日本人そのものだと思っています。外国の安い労働力に頼ればいまや何でもできますが、それだとやっぱり技術が漏れてしまう。世界との競争に負けてしまいます。
金丸:家電メーカーがまさしくそうですよね。
石原:僕は長崎からイギリスへ勝負に行き、11回優勝しました。ほかの国の庭師たちは5億円や10億円をかけて庭を作っているけど、僕は最大でも1億円しかかけません。それでもなぜ勝てるのか。それはやっぱり職人がみな真面目に取り組んでくれるし、信頼し合っている師弟関係があるからです。損得を超えてきっちり仕事をしてくれるからこそ、多くの人を感動させられるのだと確信しています。
金丸:その職人の世界に持続性を持たせるためにも、ちゃんと勉強できて、腕に見合った報酬が得られる環境を石原さんは作りたいんですね。故郷の長崎に。
石原:はい。長崎を職人のエデンにするのが、僕の夢です。
金丸:素晴らしい。海外に価値を発信するだけでなく、国内で職人たちを養成する。ガーデニング業界でそれができれば、ほかの分野にも大きな影響を与えるはずです。いずれ必ず遊びにいきたいです。今日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。
【SPECIAL TALK】の記事一覧
2024.11.21
Vol.122
~自分の体を認めることが、自分を好きになるための第一歩になる。~
2024.10.21
Vol.121
~スポーツの喜びをより多くの人が体験できるよう、これからも挑戦はやめない。~
2024.09.21
Vol.120
~日本の農業が続くための仕組みを作り、アップデートできるよう挑み続ける~
2024.08.21
Vol.119
~すべてを制覇したい気持ちは変わらない。経営陣になっても燃えたぎる闘志がある~
2024.07.20
Vol.118
~歌舞伎役者を夢見た少女だから、歌舞伎役者の母としてできることがある~
2024.06.21
Vol.117
~1杯で幸せになる利他的なコーヒーを目指して~
2024.05.21
Vol.116
~多くの人の期待と希望を背負う街づくりほど、面白い仕事はない。~
2024.04.19
Vol.115
~この楽器だからこそできる表現を。歴史ある箏を武器に世界を目指す~
2024.03.21
Vol.114
~勝負の気持ちから感謝の気持ちに。青森の伝統を守り、盛り上げたい~
2024.02.21
Vol.113
~学問という知的な武器を子どもたちに。学びの体験をアップデートして日本を変える~
おすすめ記事
2020.04.21
SPECIAL TALK Vol.67
~ネガティブなマインドでは何も勝ち取れない。自分を信じ通すことが、勝負強さの鍵になる~
- PR
2024.11.20
銀座で女性と過ごす夜。アイリッシュウイスキーが引き寄せた、2人だけの密やかな高揚とは
2016.07.05
年収1,000万超の秘密とは!人気職業"総合商社"の給料の実態に迫る
2023.08.16
ハラスメント探偵~通報編~
会社の休憩室で、ある食べ物を食べていた29歳男性。突然、女性社員に叫ばれ、戦慄の事態に!
- PR
2024.11.18
総勢100名に当たる!西友&東急ストアで「スプリングバレー」を買って東カレ厳選グルメをもらおう!
- PR
2024.11.21
クリスマスは絶景を望むホテルデートへ!彼女がワッと喜ぶ、とっておきの夜を丸の内で過ごすなら…
- PR
2024.11.22
渋谷在住の29歳OLが自分へのご褒美に♡と、奮発したあるモノとは?
2023.07.05
ハラスメント探偵~解決編~
「君にはパッションが足りない!」他の社員がいる中で、上司が大声で叱責。これってパワハラ?
- PR
2024.11.22
2024年の締めくくりはこれで決まり! 美味でゴージャスな「アメリカンビーフ」を楽しめるステーキハウス4選
2016.02.01
中国ビジネス関係者必携!日本で唯一の中国歳事が全網羅のカレンダー登場
東京カレンダーショッピング
『佐藤養助商店』:門外不出の技による、喉ごし滑らかな"稲庭干饂飩"
『かに物語』:ふっくらと肉厚な一本爪が2本入ったフレンチカレー
『西岡養鰻』:特製タレ付き!脂の乗った高品質な鰻を土佐備長炭で丁寧に焼き上げた蒲焼
『マルヒラ川村水産』:ご飯に載せて贅沢いくら丼!1粒1粒に旨みが凝縮された、とろける食感の北海道函館産天然いくら
『North Farm Stock』:北海道産ミニトマト使用!糖度が高く、コクとうまみがたっぷり詰まったトマトジュース
『ル・ボヌール 芦屋』:フリーズドライフルーツにホワイトチョコがたっぷりと染み込んだ新感覚スイーツ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
ロングヒット記事
2024.11.18
恋のジレンマ
アプリで出会った女性と初デート。女が困惑した、男が渡した妙なプレゼントとは
2024.11.22
年収4,000万男子の恋愛事情
結婚に焦る31歳女が犯した致命的ミス。せっかくハイスペ彼氏ができたのに…
2024.11.21
かわいく生きられない女たち
毒吐き用のSNSアカウントが、彼の親にバレた!慶應幼稚舎出身、27歳女の裏の顔とは
2024.11.23
男と女の答えあわせ【Q】
「1日2回は多い?」付き合う前のアラサー男女。適度な連絡頻度の正解は?
2024.11.20
東京レストラン・ストーリー
原宿のおしゃれな2LDKで「ルームシェア」する24歳女。でも、現実は一緒に住むのは難しくて…