あなたに会える、その日まで Vol.2

「おめでとうなんて言わないで!」妊娠初期の妊婦にプレッシャーをかける言葉とは

新しい命をお腹に宿し、赤ちゃんとともに過ごす十月十日。

花冠をつけて、マリア様のようにやわらかく微笑むマタニティーフォトの裏側には、さまざまな物語がある。

たくさんの笑顔と涙に彩られるマタニティーライフ。

あなたに会える、その日まで。



市川優は、独立したばかりのテキスタイルデザイナー。結婚5年目の33歳だ。

不妊治療の末、ようやく待望の赤ちゃんを授かった優。

喜びを感じるのつかの間、つわりと情緒不安定に襲われ夫の亮介にも辛く当たってしまう。

そんな中、突然出血をしてしまい…。


「どうしよう…亮介」

「すぐ、車出す!病院へ行こう」

生理二日目を超えるような出血量と、下腹部の鈍い痛み。良くないことが起きているのは、確実だった。

―もしかして、赤ちゃんダメ?流産なの?

最悪の事態を想像するだけで、心臓の鼓動がどんどん早まり、血の気が引いていく。

急いで車に乗り込んだものの「ダメかもしれない」という悪いイメージに感情が支配され、亮介の前向きな励ましがまったく心に響かない。

「大丈夫だよ。赤ちゃん絶対無事だから。信じよう」

「そう思いたいけど…」

優の弱気な言葉に対し、亮介は深呼吸をしてからきっぱりと言い切った。

「いや、大丈夫だ。赤ちゃんと一緒だし、安全運転で行こう」

まるで自分に言い聞かせるような口ぶりでそう言うと、まっすぐ前を見据えながら、ゆっくりとアクセルを踏んだ。

向かった先は不妊治療のクリニックではなく、近くの総合病院だ。通っているのはあくまで不妊治療専門なので、切迫流産などの治療は行っていない。次回の来院までに妊婦健診を受ける病院を決め、紹介状を書いてもらって卒業という流れだったのだ。

じっくりと産院を考えるつもりだったので、まだ健診に通う病院も決めていない。近所の総合病院には産婦人科があるため、ひとまずそこに電話をして駆け込むことにする。

土曜日の午後で、一般の外来の時間外だ。シーンとした待合室で、ただただ二人で無事を祈っていた。診察室に呼ばれ、簡単に症状を伝える。内診を受ける間も優の胸は、不安と混乱で張り裂けそうだった。

産婦人科の女性医師は内診台のカーテンを開けると、横たわる優に向かって、エコーの画面を指差した。

「市川さん…ここなんですが…」

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