ひも結び Vol.9

「あなたは働かないで、家にいて」エリート彼女からの提案に、男がした返事

心の安らぎのため、人は愛を求める。

しかし、いびつな愛には…対価が必要なのだ。

―どこへも行かないで。私が、守ってあげるから。

これは、働かない男に心を奪われてしまった、1人の女の物語。

◆これまでのあらすじ

31歳の川辺望美は、役者志望のヒモ・ヒデを飼うことで過去の恋のトラウマを癒やしていた。無職だったヒデはあるきっかけで役者として成功の一歩を踏み出す。しかし望美は、共演相手の女優に嫉妬してしまうのだった


郵便物を確認する間も惜しい。望美は、はやる気持ちを抑えながらエレベーターに駆け込むと、先ほど買ったシャンパンの紙袋を抱きしめる。

自宅フロアで降りるなり小走りで帰宅した部屋には、すでにヒデが来ているようだった。

「ただいま」

「おかえり、望美さん。今日も遅くまでお仕事お疲れ様。ご飯作っておいたよ」

食欲をそそる香りと愛らしいヒデの笑顔に、こわばった体の力がとろけるように消えていく。

望美は「ありがとう。こんなのも買って来たから、一緒に飲もう」と言いながら、シャンパンをヒデに向かって差し出した。

「わっ、結構いいシャンパンじゃん。何?望美さん、何かいいことあったの?」

「うん、ちょっとね。乾杯したら教えてあげる」

「なになに〜?超気になる。早速開けようよ、座って座って」

ソワソワとしながらヒデは、元バーテンらしく手慣れた様子でボトルの栓を抜く。

そして、ペアのフルートグラスにたっぷりとシャンパンを注ぎ、食卓に着いた望美の前に差し出した。

望美はグラスに手をかけて軽く持ち上げると、心が弾むのを抑えきれずに、微笑みを浮かべながらゆっくりと口を開く。

「実は…上司が産休に入るタイミングで、後任として昇進することが決まりました!」

それを聞いたヒデは、目を丸く見開きながら感嘆の声を上げる。

「おお〜、おめでとう!じゃあカンパー…」

だが、乾杯の声を上げようとするヒデを制止して、望美はなおも言葉を続けた。

「ちょっと待って…。それでね、昇進すると、お給料もかなり良くなるの。多分、額面で1,200万近くになるんじゃないかな。だからね…ヒデ」

「うん」

「結婚しよう?…私がまた、養ってあげる!」

【ひも結び】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo