失恋の傷に効く、癒しの「ラザニア」
さっきInstagramで見たルミちゃんの、焦げついたラザニアの画像が脳裏に浮かぶ。
このままだと、“ラザニアトラウマ”になってしまいそうだが、料理に罪はない。
「なんでよりによって、ルミちゃんなのよ…」
嫌な記憶を上書きすべく、戸惑いながらもオーダーすることにした。
そうして運ばれてきたのが、「ヴィンチスグラッシ」通称“マルケ風のラザニア”だった。
こんがりと焼き目がついている表面のチーズの上には、さらに数種類のチーズがまぶしてある。まるでミルフィーユのようにも見える、美しい重なり。
ゆっくりとフォークを入れると、極薄ながらもモチッとした弾力を残した手打ちパスタの間から、熱いミートソースがこぼれ落ちる。
そして口に入れた瞬間、ずっと心の奥にしまっていたはずの感情がとめどなく溢れ出してきた。
「美味しい…。見た目も味も、完璧」
それは、牛肉・豚肉・鴨肉の3種類の肉の旨味が詰まった、ミートソースだった。
そこにアクセントとなるのは、口当たりの良いチーズのコンビネーション。全ての食材が、主張し過ぎていないのに主役級の役割を果たしていて、絶妙なバランスだ。
ゆっくりと温かいラザニアを味わっているうちに、気がつけば、私はポロポロと大粒の涙をこぼしていた。
年齢が上がるにつれてできることが増え、仕事が楽しくて仕方なくなっていた。同期である恭平は恋人でありながらもどこかライバルで、お互いデート中でも仕事の話になって、ヒートアップすることも多かった。
そして、何もかもを全て自分一人で完璧にこなそうとしていた。
でもきっと、ルミちゃんは違う。
“うんうん”と静かに話を聞いてくれ、自らの失敗を隠すこともなく堂々と披露して、そこを愛嬌に変えられる強みもある。
私だったら、あんなにも焦げたラザニアを恭平に出すことはできない。一から作り直しをしないと、自分のプライドが許さないと思うから。
でも、そもそも無理をして作る必要なんてない。
ーだってお店に行けば、こんなにも美味しくて、感動するラザニアに出会えるんだから…。
週明けにルミちゃんに会ったら、どんな顔をすれば良いのだろう。
周囲からはどんな目で見られるのだろうか。35歳独身で、“イタイ女”のレッテルでも貼られるのだろうか。
だけど私はそのとき不意に、さっき店先でカップルが言っていた“幸せ”という言葉を思い出した。
明日からまた、ひとりで過ごす寂しい毎日が待っているのかもしれない。それでもきっと、ひとりの時間の中で、小さな幸せを見つけていければいいと思う。
例えば、今日、ラザニアを食べて感動したみたいに。
「ご馳走様でした!」
美味しくて温かみのあるマルケ料理を食べ終わると、私の心はすっかり落ち着いて穏やかな気持ちになっていた。
—私は大丈夫。頑張れ、私。
またこみ上げてきそうになった涙をぐっと堪え、店を後にして赤坂の夜空を見上げた。
【今週の婚活ひとり飯】
店名:『aniko』
料理:オリーブの肉詰めフリット /ヴィンチスグラッシ(マルケ風のラザニア )
▶NEXT:2月26日 水曜更新予定
出会いの香りがする恵比寿ジントニック
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この記事へのコメント
じゃあラザニア作った相手ってロブションで振ったやつと同一人物なの?社内だから知らないわけないし、先輩の彼氏取っておいてルミちゃんは「婚約おめでとうございます〜」とかいってたの?
スーパーサイコパス女だな...恐怖しかないわ...