200億の女 Vol.26

「SNSで晒しますよ?」女の弱みを握った男からの、非情な脅迫の言葉

騙されたのは女か、それとも男か?
「恋」に落ちたのか、それとも「罠」にはまったのか?

資産200億の“恋を知らない資産家の令嬢”と、それまでに10億を奪いながらも“一度も訴えられたことがない、詐欺師の男”。

◆これまでのあらすじ

一度は詐欺師の罠をかわしたかに見えた智だったが…詐欺師・親太郎の策略により、夫と離婚し、親太郎と恋人関係に。それを知った親太郎の元カノが嫉妬に狂い、警察へ出向くがその捜査が、トップの命令により突然打ち切られてしまう。そして親太郎が、智の父・潤一郎から呼び出されたのだが…。


「昼間は智と会われていたようですが…送金は無事終りましたか?」

「智さんの許可がなければ、喋ることができません」

向かい合う小川親太郎に笑顔で質問をかわされると、神崎潤一郎は、芝居めいた小さなため息をつき、ラム肉にナイフを入れながら続けた。

「小川先生が、善人ではないということは分かっていたつもりでしたけどねえ」

親太郎は何も答えず、食事を続ける潤一郎の次の言葉を待った。

親太郎は先程到着したばかりだったが、先に食事を始めていた潤一郎のペースに合わせるため、前菜を頼まず、すぐにメインの肉料理を注文した。

牛とラムと鴨。その中から鴨肉のローストを選んだ親太郎に、肉料理で鳥を選ぶ男とは私は相性が悪いんだよ、と潤一郎は真面目な顔で言った。

カトラリーと皿がかすかにぶつかり、グラスにワインが注がれる。言葉を交わさぬ2人の食事の音。

それだけが、彼ら以外誰もいない空間に響いた。2人の容姿や佇まいが醸し出す迫力のようなものが、和洋折衷のインテリアに溶け込み、妙な異世界感を強めている。

ここは、大正時代に日本邸宅を洋風に改築した建物。最寄り駅は四ツ谷駅で、千代田区の番町にある。

潤一郎は親太郎に『四谷の会員制のレストラン』と伝えて呼び出したが、高い塀と広い庭の効果も相まって、その実体を知るものは少ない。

会員リストは厳重に管理されていて、紹介制というわけでもなく、会員の誰かがその資格を失うと、どこからともなく次の候補へ案内状が送られてくるという噂。

マサが集めてきた情報も、秘密結社のような社交クラブで、国の中枢にいる大物たちが、公にはできない会合を開くための場所なのだとか、運営を任されているのは代々占い師の一家らしいとか、どこか怪しげなものばかりだった。

ほぼ同時に、カチリ、とナイフを置いた潤一郎と親太郎の皿を、従業員…と呼ぶのが相応しいかどうか分からない男性が、流れるような所作で下げていく。彼が去ったタイミングで、潤一郎が、さて、と言った。

「そろそろ本題に入りましょう。お願いがあってお呼びしたのですが、これ以上の騙し討ちはご遠慮願いたいと思いましてね。小川先生は、入り口でのボディチェックの意味をお分かりでしょう?」

確かに親太郎は、入り口で入念なボディチェックを受けていた。それが盗聴盗撮の機器を持っていないか確かめるためだ、と理解はしていたが、敢えて尋ねる。

「録音録画が困るような発言をなさるつもりでしょうか?」

「いえ、万が一の対策ですよ。なにせ小川先生には何度もしてやられていますから、念を入れたまでです。でもご安心ください、こちらもフェアにいきますよ。お互いに記録はとらない、この場限りの会話ということで、よろしいでしょうか?」

潤一郎は、丸腰だという表現のつもりなのか、おどけた仕草で両手を上げて見せた。そして、まずは私から、と言って続けた。

「私の要求は、言うまでもなく…今すぐ、娘から離れてもらいたい、ということです」

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