2019.11.21
SPECIAL TALK Vol.62金丸:これまで手掛けたなかで、特に思い出深いプロジェクトはありますか?
吉田:4人の女性インテリアデザイナーのチームに選ばれて、サポートに入った、インディアナ州のトランプカジノでしょうか。
金丸:トランプ大統領が作ったカジノリゾートですね。カジノは日本でも今、なにかと話題です。
吉田:カジノのデザインって、本当に特別なんですよ。セキュリティはもちろんですが、喫煙者が多いので、火事を防ぐための独特の規制もありますし。日本の建築家の方がよく「アメリカのインテリアデザイナーって、自由でいいよね」とおっしゃいますが、実はそうでもないんです。
金丸:アメリカでも、いろいろな規制があるんですね。
吉田:私が拠点としているニューヨークには、すごく厳しいコードがあります。日本だと、たとえば小さい子どもが落ちてしまいそうな階段の手摺りのデザインを見かけますが、ニューヨークでは絶対に取り付けられません。それに、ちょっと何かあると「弁護士を呼ぶ」と言われる国ですから、いつも相当な緊張感を持って仕事をしています。今日は笑顔だけど明日はどうなるか、という緊張感の連続です(笑)。
唯一無二のデザイン。成り立たせるのは和の心
金丸:会社勤めのあとフリーになられますが、最初から独立しようと考えていたのですか?
吉田:いずれはフリーで仕事をしてみたいと思っていました。YZDAという名前も、もともと会社勤めの頃から使っていたもので、この名義でイタリア人の建築家とコラボしたり、休日を利用して照明や家具を作ったりしていました。
金丸:では、何がきっかけで独立しようと?
吉田:ひとつは結婚ですね。私は欲張りなので、家庭も欲しいし、子どもも欲しい、でも仕事も欲しい。
金丸:なるほど、欲張り(笑)。いいじゃないですか。旦那さんとはどこで知り合ったんですか?
吉田:シアトルです。夫はアウトドアブランドの管理職に就いていて、転勤についていくために結婚しました。シアトルからサンフランシスコに移り住み、その後もデンバー、ロッキー山脈とあちこち行きました。でもそれが自分の強みにもなっていて、その地域になじむ色とかインテリアを提案することができる。転勤を利用して、自分の感性や表現力を高められたといえますね。そして2005年頃から、レジデンシャルデザイナーを名乗りはじめました。
金丸:吉田さんはアメリカで長年キャリアを築かれていますが、「日本出身」ということが、特別な付加価値になるものなのでしょうか?
吉田:私は「日本人である」ということにそんなにこだわっていませんし、クライアントから要求されない限り、無理に日本の「和」を押し出すこともしません。ただ、こだわりがあるとするなら、和の“心”の部分です。
金丸:それは、「おもてなし」ということですか?
吉田:はい。アメリカではあまりない、“とことんサービスする”という精神です。クライアントのなかには、とてもこだわりが強くて、「ちょっと1時間話を聞いてほしい」と言っていたのが結局10時間かかった、ってもが成長して夫婦ふたりになったら違う家に移るというように、ライフスタイルやライフステージに合わせて引っ越すものだと考えています。ですから、「こういうデザインなら、売却するときも不動産としての価値が上がりますよ」というように、将来的な視点を持ってサポートしています。
金丸:吉田さん自身がどのようなデザインをしたいのかではなく、クライアントの側に立って、将来を見据えた上で総合的にデザインしている。吉田さんのデザインを見ていると、とてもスッキリしていてモダンな感じがしますし、見た目は和風でなくても、どことなく和を感じます。
吉田:実は日本に来ると、陶器や織物など良いものを見つけたら必ず買って帰ります。どのプロジェクトにも、和を感じさせるアイテムが必ず入っていますね。
金丸:全面に出すのではなく、アクセントとして、ということですか?
吉田:私にはやっぱり唯一無二のデザインを提供したい、という思いがあります。“アートとデザイン、心と体、そして技術”そのすべてが包括された、私にしかできないデザインを提供したい。その個性のひとつが、ほかのデザイナーさんが絶対持ってこられないような日本の陶器だったり絵画だったりしますね。
金丸:なるほど。染物にしても陶器にしても、日本もかつては匠による付加価値が高いものづくりが行われていました。しかし、高度成長期にほとんどのものが工業製品になってしまった。付加価値やデザイン性を捨てたことで低価格競争に巻き込まれ、競争力を失っていったんです。吉田さんの発想は、クライアントに寄り添った究極の一点物ですから、その真逆をいっていますね。
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